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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.1 HI-BRID DIGITAL AUTOFOCUS
 

 ゴルフクラブの設計を仕事にしております松尾です。このような仕事をしていることから、日々、様々なクラブを研究しています。そのような背景もあって、この度、ダンロップのクラブを私なりに検証させて頂くコラムを、このウェブに持つことができました。いいクラブなのか、ちょっとイマイチなのか、発展途上のクラブなのか、そのあたりをはっきりと明言していきたいと思っています。そんなわけで、ゴルフクラブにこだわりのある方々に、少しでも楽しくお役に立つものになればと思っています。

 第1回目の今回は、今シーズンから「デジタルインパクト」というキャッチフレーズでそのハイテク ぶりを旗印に掲げるダンロップの、イチオシニューモデルである『ハイブリッドデジタルオートフォーカス』のウッドを分析しました。まずは私の工房であるジャイロスポーツでこのクラブを様々な角度から実測しました。
 実際に商品となったクラブはどこのメーカーでもそうですが、カタログなどに表示される数値と若干の誤差が生じます。ダンロップのクラブはその誤差が非常に少なく、優秀なメーカーであることが知られています。今回、私のもとに来た『ハイブリッドデジタルオートフォーカス』ウッドは、実測したところ、クラブの長さは45.4インチと表示よりもわずかに長めですが、超尺傾向を避けて振りやすさを重 視した設計です。そして、クラブの重さはSシャフトで294gでスイングウェイトD1.2。Rシャフトで 290gスイングウェイトがD0.0となっています。この誤差はやはり大変に少ない物といえるのです。
  さて、クラブの振りやすさは、クラブ全体の慣性モーメントに左右されるのですが、このクラブの慣性モーメントを測定すると、Sシャフトで288万gcm2、Rシャフトで284万gcm2と、市販クラブの平均値で ある291万gcm2よりかなり小さくなっています。つまり、大幅に振りやすいクラブであることが分かります。ちなみにアイアンの1番手差は約1.5~2.0万gcm2ありますので、このクラブのように3~4万gcm2違えばアイアン2番手分の振りやすさを持っているということになるのです。
 一方、ヘッド輪郭はオーソドックスな丸型形状で、体積は310mlと特別に大きくはありませんが、投影面 積が大きく構えた時に安心感があります。また、クラウン部のトゥ側を高くヒール側を低くした設計で、視覚的にライ角度がアップライに見えるように作られています。
 そして、スィートエリアの広さ、つまりやさしさを表わすヘッドの慣性モーメントは3304gcm2でした。これは市販ヘッドの平均値3079gcm2より大きくなっていますので、打点のばらつくアベレージゴルファーの方でも安心して使うことができると思います。
 こうして計測を終え、実際にこのクラブを試打してみました。すると、確かに振りやすく、その上 シャフトがかなり軟らかく作られていますので、ボールが上がりやすくなっています。また、少々打点 を外して打ってみたのですが、ボールの曲がりが少なく、弾道が安定することがわかりました。ミス ショットが、ミスにならなくてすむということでしょう。
 それと重心距離が長く、ネック軸回りの慣性モーメントが大きいために、フックし難いクラブでしたので、フェースをクローズ状態に保ってスイングするとよいでしょう。SとRの両方のフレックスを試打しましたが、シャフトが軟らかめということもあるので、少々ヘッドスピードが遅い方でも、Sフレッ クスがよいと思います。具体的には、ヘッド速度が40m/s(飛距離にして210ヤード前後)あれば、S フレックスで十分ではないかと思いました。
 次回は『ハイブリッドデジタルオートフォーカス』アイアンを、私なりに評価してみたいと考えています。


松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。