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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.80

『ゼクシオエイト』ドライバーを検証する


ゼクシオ エイト ドライバー 2000年に登場した初代モデルからクラブとしての王道を歩んできた『ゼクシオ』が、今年の『ゼクシオ8(エイト)』で8代目を迎えることになりました。『ゼクシオ』は2年ごとにモデルチェンジされ、アベレージゴルファーがゴルフをエンジョイできるクラブとして着実な進化を遂げています。すでに多くの方が使用されていると思いますが、今回も私なりに詳しく検証してみることにしました。(実測データは別表参照)

1) 明らかにやさしくなったヘッド
 『ゼクシオ』の歴代モデルはどれも良いクラブでしたが、私の個人的な感想では、12年前の2代目、6年前の5代目、2年前の7代目の3つの『ゼクシオ』が、その中でもとても良いクラブだったと思っています。
 私は設計・製造の技術的な問題はもちろん、人が構えたときにナイスショットを予感させてくれる外観も重要なものだと考えています。そして、今回の8代目の登場です。
 この『ゼクシオエイト』というクラブをわかりやすく簡潔に述べると、「明らかにやさしく打てるクラブへの進化」という表現ができると思います。つまり、球をつかまえることができ、同時に球を上がりやすくすることで、より安定した飛距離を出そうという狙いです。
 具体的には、前『ゼクシオ7(セブン)』に比べて、ヘッドの横幅が広くなってアドレスでの投影面積が大きくなり、同時に深重心化も達成されています。フェース面の重心距離が短くなったことで球をつかまえやすくなっただけではなく、重心深度が深くなると同時にフェースプログレッションも大きくすることで明らかに球が上がりやすくなりました。
 また、フェース面に近い部分の塗装を工夫することで、アドレスでフェース面がよく見えて「打ちやすそうに感じる!」ように改善されています。
   
2) シニアゴルファーもしっかりスイングできるクラブ
 『ゼクシオ』のクラブ長さは5代目が45.75インチ、6代目が46.0インチ、そして前7代目は45.5インチと、ここ3代は微妙に長さを変えて登場してきました。
 もちろん、読者の方々ならばよくご存じだと思いますが、クラブの長さが長くなるにつれてクラブ全体の慣性モーメント値が大きくなり、クラブは振りにくく(自分自身が持っているパワーを越えてしまうと振れなくなる意味)なっていきます。
 また、『ゼクシオエイト』が発表される前、つまり、2013年は47インチを越えるような長尺ドライバーブームの再燃もありましたので、『ゼクシオエイト』の長尺化を期待していた販売店もあったかもしれませんが、ダンロップの開発陣は45.5インチで長尺よりも飛ぶクラブを開発してくれたと理解しています。
 『ゼクシオエイト』はアベレージゴルファーのスイングを分析し、アベレージゴルファーがタイミングよく振れること、その結果、安定した飛距離を出せることを重視し、完成したクラブだと思います。
 実際、『ゼクシオエイト』のクラブ総重量は、実測比較で『ゼクシオセブン』に比べて約12g軽くなり、クラブ全体の慣性モーメントが小さくなって振りやすくなり、アベレージゴルファーもしっかりとスイングしやすくなっています。
   
3) ヘッドが重くなってパワーアップし、しかもクラブは振りやすい
 クラブ長さを46.5インチとか47インチとかの長尺にした場合、通常はヘッドを非常に軽くし、スイングウエイトが大きくなり過ぎないようにと考えます。
 しかし、ヘッド重量が軽くなってしまうと、ボールに伝わるエネルギー量が下がり、長尺でヘッド速度を上げるわりにはボール初速が上がらなくなってしまい、その結果、期待するほど飛距離は出なくなってしまいます。
 今回の『ゼクシオエイト』はクラブ長さが前『ゼクシオセブン』と変わりませんが、シャフトの改良、グリップの改良により、ヘッド重量が重くなってパワーアップし、しかも振りやすいクラブが達成されています。
   
4) 広い反発エリアで平均飛距離もアップ
 『ゼクシオエイト』は高度なコンピューター解析によって、フェース面の中に5カ所もの異なった肉厚部分を設計し、より広い反発エリアが達成されています。そのために、フェースの芯を外したミスショットでも、より広範囲での速いボール初速が実現できています。
   
5) 球をつかまえ、大きく飛ばすシャフト
 今回、『ゼクシオエイト』に装着されている「ゼクシオMP800」カーボンシャフトは、前「MP700シャフト」よりもさらに手元側に重心点を移し、より重いヘッドを装着しながら、クラブ全体の慣性モーメントを下げる設計になっています。
 以前にも解説していますが、特別に重い材料を手元側に配置しないで重心点を手元側にするのはとても難しいことです。
 『ゼクシオ』の良い点はヘッドの進化だけでなく、シャフトも着実に進化させ、クラブとして扱いやすいものになっていることです。
 今回、9.5度のSシャフト、10.5度のSRシャフト、11.5度のRシャフト仕様をそれぞれ試打しましたが、どれも試打の1球目からナイスショットが出るのはクラブとしての完成度の高さを感じます。
 SやSRは軟らかさの中にもしっかり感があり、インパクトが安定する感じで、よく吟味されているシャフトだと思います。
 ヘッド速度が38~40m/sくらいでスイングすると10.5度のSRが、ヘッド速度が40~42m/sくらいでスイングすると9.5度のSとの相性が良く、それぞれ効率良く飛距離が出ていました。また、少し非力なゴルファーの方には、やさしく安定して飛ばせる11.5度のRシャフトがお勧めです。
   

■松尾好員の辛口トーク

1) ドロー系プレーヤーにはやさしくなり過ぎたかも。プライム化したクラブ重量、今後どうする?
 今回の『ゼクシオエイト』は、確かに前『ゼクシオセブン』よりも球がつかまり、かつ高弾道を打ちやすいのですが、『ゼクシオセブン』でも球をつかまえることができていたプレーヤーにとってはさらに球がつかまると感じるかもしれません。また、『ゼクシオエイト』は45.5インチでおよそ270~275gの超軽量のクラブ重量に設定されており、数字では『ゼクシオプライム』に近いスペックと言っても過言ではないと思います。
 次の『ゼクシオ』の9代目はどんな方向性に持って行くのか? 今から楽しみにしています。
   

XXIO8 ドライバ−実測値
9.5度-S 10.5度-S 11.5度-R XXIO7
9.5度S
XXIO7
10.5度SR
MP800 MP800 MP800 MP700 MP700
クラブ長さ inch 45.5 45.5 45.5 45.5 45.5
クラブ重さ g 275.2 274.9 269.6 287.1 284.9
スイングウエイト   D4.0 D4.1 D2.8 D2.3 D1.7
クラブ慣性モーメント gcm² 286万 286.7万 283.7万 288万 286万
 
ヘッド重さ g 195.0 195.0 194.9 194.1 195.5
ヘッド体積 ml 459 458 460 461 459
リアルロフト deg 10.1 11.7 12.8 10.0 11.7
ライ角 deg 59.0 58.5 59.0 58.5 58.5
フェース角 deg HOOK 1.0 HOOK 1.0 HOOK1.5 HOOK 1.0 HOOK 1.0
フェースプログレッション mm 20.5 20.7 22.0 19.0 19.2
 
重心距離 mm 38.8 38.9 39.4 37.9 38.7
重心深度 mm 40.0 39.7 40.6 39.2 41.3
フェース高さ mm 52.8 53.0 53.0 52.1 51.8
スウィートスポット高さ mm 33.6 34.4 34.9 33.0 34.0
低重心率 63.6 64.9 65.8 63.3 65.6
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm² 4,452 4,335 4,373 4,500 4,505
ヘッド上下慣性モーメント gcm² 2,828 2,715 2,722 2,700 2,860
ネック軸回りモーメント gcm² 7,144 6,936 7,074 7,008 7,366

※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。