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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.74

『ゼクシオ7』ドライバーを検証する


 2000年に誕生した初代『ゼクシオ』から早くも12年が経ち、オリンピックイヤーの 今年は7代目の登場となりました。7代目ということで、このニューモデルは『ゼクシオ7(セブン)』と命名されています。
 これまで『ゼクシオ』は2年に1度のモデルチェンジで着実な進化を遂げ、この12年間、販売1位を続けています。『ゼクシオ7』は発売されてから数ヶ月が経過し、すでに多くの方が使われていると思いますが、私なりに詳しく検証してみることにしました。(実測データは別表で、前モデルとの比較付き)

1) 男前になり、構えやすくなったヘッド
 私の正直な感想では、4年前の5代目『ザ・ゼクシオ』は完成度が高く、かなり良いクラブだったと思っています。前モデルの6代目『新・ゼクシオ』はさらにやさしいクラブに進化させるべく、ヘッドの横幅をやや広く設計していましたが、私的にはそのヘッド形状がやや構えにくさをもたらしていたように思います。
 そして、7代目の『ゼクシオ7』ですが、昨年末の新製品発表会で初めて手にしたときに、ヘッドの輪郭形状が少し5代目に戻った感があり、しかも従来からの強めのフックフェースが少しスクエアに近づいていたので、個人的に嬉しく感じました。
 人間の目は厳しいものがあります。ヘッドの重心深度や慣性モーメントを意識し過ぎて、プレーヤーの目線や感性を壊しては何にもなりません。今回の『ゼクシオ7』は試打したときにも素直に構えやすく、そして、構えやすいからこそ1球目からナイスショットを打つことができました。
   
2) 振りやすくなり、ショットのアベレージが高くなるクラブ
 5代目の『ザ・ゼクシオ』は45.75インチ、前6代目の『新・ゼクシオ』は46.0インチと徐々にクラブの長さが長くなっていました。クラブの長さが長くなるにつれて、ヘッドスピードを速くすることができますが、クラブ全体の慣性モーメント値も大きくなりますので、実は6代目は5代目よりも少し振りにくいクラブになっていました。
 『ゼクシオ7』が発表される前、つまり2011年は、多くのメーカーがドライバーの長さを長くしようとする動きがありましたので、「もし、次のゼクシオが46.25インチとかになったらどうなるだろう。さらに振りにくくなってしまったら……」と心配していました。
 しかし、何ということでしょう。『ゼクシオ7』はゴルファーがタイミング良く振りやすいこと、つまりクラブ慣性モーメント値も重視し、5代目よりも短い45.5インチで登場したのです。多くの他社メーカーはきっと驚いたことでしょう。単に長さを長くしてもドライバーは良くならないことをゼクシオの開発陣はしっかりとわかっていたのです。
   
3) ヘッドの重量が重くなり、ヘッドのパワーが上がった
 クラブの長さを長くした場合、通常ヘッドを軽くして、スイングウエイトが大きくなり過ぎないようにと考えます。しかし、ヘッド重量が軽くなってしまいますと、ボールに伝わるエネルギー量が下がり、ヘッドスピードが速くなる割にはボール初速が上がらなくなってしまいます。
 つまり、ボール初速をヘッドスピードで割るようなミート率計算では、軽いヘッドが装着された長尺ドライバーはミート率が小さくなる傾向にあります。実はこのことは多くのゴルフ専門店の店長さんたちもすでに気づいていたことです。
 今回の『ゼクシオ7』のクラブ長さは0.5インチ短くなりましたが、ボール初速に対してはヘッド重量アップ効果のほうが大きく、確かにボール初速は上げやすくなっています。
   
4) 広い反発エリアで、平均飛距離もアップ
 高度なコンピューター解析により、『ゼクシオ7』はフェース面の中に5カ所もの異なった肉厚部分を設計し、より広い反発エリアが達成されています。
 そのために、多少フェースの芯を外したミスショットでも速いボール初速がもたらされます。また、ソールやクラウンの内面にあるサウンドリブにより、ミスヒットしたオフセンターショットでも心地よいインパクトサウンドが得られます。
   
5) 球をつかまえ、大きく飛ばすシャフト
 『ゼクシオ7』に装着されている「MP700」オリジナルシャフトは、シャフト単体としてもクラブ慣性モーメント値を小さくできるように、従来のシャフトよりも手元側に重心点を移しています。実は、特別重い材料を手元側に配置せずに、重心点を手元側にするのはとても難しいことです。
 また、前シャフトの「MP600」よりもシャフトの中間部分から手元寄りを軟らかくして、ダウンスイング中のしなりが大きくなるように設計しています。ダウンスイングでのしなりが大きいということは、スクエアインパクトまでに速くシャフトが戻るわけで、ヘッドスピードアップに貢献します。
 『ゼクシオ』の良い点はヘッドの進化だけでなく、シャフトも着実に進化させ、クラブとして扱いやすいものになっていることです。
 今回の『ゼクシオ7』では9.5度のSシャフト、10.5度のSRシャフト、11.5度のRシャフト仕様をそれぞれ試打しましたが、軟らかさの中にもしっかり感があり、インパクトが安定する感じがしました。採用までに良く吟味されているシャフトだと思います。
 具体的には、ヘッドスピードが40m/sくらいでスイングすると10.5度のヘッドが、ヘッドスピードが43m/sくらいでスイングすると9.5度ヘッドとの相性が良く、それぞれ最もきれいで効率良く飛距離が出ていました。
 個人的には、ヘッドスピード40m/sくらいのアベレージヒッターには、やさしく安定して飛ばせる10.5度のSRシャフトがお勧めだと思います。

■松尾好員の辛口トーク
1) ミドルウエイトシャフト設定がなくなったので残念!
 今回の『ゼクシオ7』から、従来あったミドルウエイトシャフト設定がなくなっています。ヘッドスピードが44~45m/sくらいのゴルファーにはミドルウエイトシャフト仕様がちょうど良い感じなので、個人的には残念な感じがしています。次に販売されるであろう『XXIOフォージドシリーズ』に期待!というところでしょうか。
   
2) もう少しディープフェースでも良いのでは?
 『ゼクシオ』ドライバーはシャローフェースも特徴の1つです。ただ、個人的にはシャローフェースなので、アドレスしたときにリアルロフトが小さく見えることが少し気になっています。構えたときにロフトが小さく見えると、ゴルファーは無意識にアッパーにすくい上げようとスイングしていまい、かえって薄くインパクトしてしまいがちです。できればあと1mmでもディープフェースにして欲しいと思っています。

XXIO7 ドライバ− 実測データ
  9.5度-S 10.5度-SR 11.5度-R XXIO6
9.5-S
XXIO6
10.5-SR
MP700 MP700 MP700 MP600 MP600
クラブ長さ inch 45.5 45.5 45.5 46.0 46.0
クラブ重さ g 287.1 284.9 282.0 286.2 284.2
スイングウエイト   D2.3 D1.7 D0.9 D2.0 D2.3
クラブ慣性モーメント gcm2 288万 286万 285万 289万 289万
 
ヘッド重さ g 194.1 195.5 --- 186.9 189.5
ヘッド体積 ml 461 459 --- 456 456
リアルロフト deg 10.0 11.7 --- 10.5 12.0
ライ角 deg 58.5 58.5 --- 58.5 59.5
フェース角 deg HOOK 1.0 HOOK 1.0 --- HOOK 1.0 HOOK 2.0
フェースプログレッション mm 19.0 19.2 --- 18.6 18.9
 
重心距離 mm 37.9 38.7 --- 38.0 39.1
重心深度 mm 39.2 41.3 --- 39.3 39.4
フェース高さ mm 52.1 51.8 --- 52.8 52.9
スウィートスポット高さ mm 33.0 34.0 --- 33.1 34.1
低重心率 % 63.3 65.6 --- 62.7 64.5
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,500 4,505 --- 4,351 4,372
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,700 2,860 --- 2,718 2,710
ネック軸回りモーメント gcm2 7,008 7,366 --- 6,899 7,182
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。