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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.79

『スリクソンZアイアン』を検証する


 新しい『スリクソンZアイアン』は、ドライバーやフェアウェイウッドと同様に昨年の8月から発売されました。すでに多くのツアープロに愛用されていますが、今回の新しいアイアンの性能はどのように進化しているのでしょうか。ドライバーやフェアウェイウッドと同様にじっくりと検証してみることにしました。(実測データは別表参照)

1) 3タイプのヘッドが同時に登場
 『スリクソンZアイアン』はドライバーと同様に、一度に3タイプのヘッドが登場し、自分の好み、求める弾道、プレースタイルに合わせて選べるようになりました。
 『Z525』、『Z725』、『Z925』の順にフェースの長さが短くなり、同時にトップラインの厚みとソールの幅も順に薄く、狭くなっています。
 そして、アドレスしたときの印象は、ポケットキャビティでやさしそうな『Z525』、スリクソンらしい落ち着いた雰囲気の『Z725』、格好いいマッスルバックの『Z925』となります。
   
2) 『Z525アイアン』はやさしさと飛距離が魅力
 『Z525アイアン』は3つのモデルの中で、最もフェースが長く、最もソールの幅が広く設計されています。アドレス時のグースネックに見える度合いも強くなっており、球をつかまえるイメージが出ています。また、ストロングロフト設定なので、明らかに飛距離重視設計であることがわかります。
 『Z525アイアン』のフェース素材には一般に軟鉄の約3倍の硬さ、強さを持つクロムバナジウム鋼が使われており、薄肉フェースで反発性能が高くなっています。試打するとわかりますが、打感は軟鉄フェースの『Z725』や『Z925』に比べて硬いですが、アゲンストの風でもボール初速を上げ、ストロングロフトとも相まって飛距離が出やすくなっているのが特徴です。
 アベレージゴルファーも使える『Z525』ですが、3番アイアンから用意されているのはさすがに『スリクソン』です。
   
3) 『Z725アイアン』は操作感と安定した弾道が魅力
 『Z725アイアン』のヘッドはスリクソンらしく落ち着いた形状と、わずかなグースネックで、とてもアドレスしやすくなっています。決して大きなフェース、幅の広いソールではありませんが、ヘッドの操作感とソールの抜け感がとてもよく、悪いライからでもナイスショットしやすくなっています。
 『Z725』は競技ゴルファーだけでなく、これから上を目指すアベレージゴルファーがよいスイングを身につけていくにもとてもよいアイアンだと思います。
 また、『Z725』はフェースの打面の肉厚が厚いので、軟鉄本来の打感で気持ちよくショットできます。ヘッド形状、打感、そして、前後の飛距離も大事にするベターゴルファーにお勧めのアイアンです。
   
4) 『Z925アイアン』は打感と球を操ることが魅力
 『Z925アイアン』は『Z725アイアン』と比べて、少しフェースの長さが短く、ソールの幅も少し狭くなっていますが、わずかなグースネックでアドレスしやすくなっています。
 そして、『Z925』のよさですが、フェースの打面の肉厚が『Z725』よりもさらに厚いので、インパクトでの打感のよさ、芯を食ったときの気持ちよさは最高です。
 さらに、小ぶりなヘッド故の操作性のよさで、ドローやフェードだけでなく、弾道の高低の打ち分けもしやすくなっています。
 ツアープロに『Z925アイアン』の使用者が結構多いのも納得できる仕上がりです。
 また、『Z925』にはマッスルバック特有の格好よさや所有する喜び(バッグにこのアイアンが入っていたらどんなに格好いいことでしょう)があります。
   
5) 新開発シャフトでヘッドスピードアップ
 新しい『スリクソンZアイアン』はドライバーやフェアウェイウッドと同様に、「デュアルスピードテクノロジー」により、クラブを振りやすくしてヘッドスピードを上げ、ヘッド重量を重くしてボールスピードを上げようと設計されています。
 特に今回のスチールシャフトで手元重心設計されたシャフトは特徴的です。まず、「ダイナミックゴールドD.S.Tシャフト」ですが、シャフトの先側の重量を手元側へ移動させています。その結果、通常の「ダイナミックゴールドシャフト」よりも先側が軟らかくなって球が上がりやすくなり、振りやすくなっています。
 また、「N.S.PRO 980GH D.S.Tシャフト」も同様に、シャフトの先側から中間部までの細い部分をより長く取り、重量配分を先側から手元側へ移動させることで、手元重心化が達成されています。
 試打したフィーリングでも、両者とも先側が軟らかいので球が上がりやすく、フレックスも先側から中間部が軟らかめに感じられます。特に「980GH D.S.T」は、一般に広く普及している「950GH」よりもシャフト重量自体は少し重いわけですが、逆に軟らかめのやさしいシャフトになっています。
 『スリクソンZアイアン』にはカーボンのツアープレミアムシャフトである「Miyazaki KENA Blue8」も用意されています。このシャフトは「980GH D.S.T」仕様に比べてクラブの総重量が約20g軽くなって振りやすいので、ヘッドスピードが上がり、その結果バックスピンも増えて弾道が高く上がりやすくなっています。イメージとしては1番手高い弾道を打てる感じです。カーボンシャフトであっても、十分しっかりしており、一般シニア向けの50g台や60g台のシャフトとは安定感がまったく違います。
 基本のラインアップはもちろんある程度限られていますが、それ以外は特注で多彩なシャフト選択が可能であることが示されていますので、自分に合ったものを選びやすくなっています。特に『Z725アイアン』においては、標準仕様でも3種類のシャフトから選択可能になっています。
 (Z725のシャフト別実測データは別表を参考)
   
6) レーザーミーリングによる安定したスピンを得られる安心感
 新しい『スリクソンZアイアン』には、クリーブランドゴルフのウエッジでも見られる加工精度の高いレーザーミーリングが施されています。プロや上級者にとってはそのミーリング効果により、安定したスピン性能が得られるでしょう。
   

■松尾好員の辛口トーク

8番以下のショートアイアンのヘッド・ネック形状
 新しい『スリクソンZアイアン』では、8番が7番のヘッドイメージになっています。できれば、もう少しトップラインを丸くして8番をショートアイアンイメージにしてはと思います。そうすることで、ショートアイアンとして、より多彩なショットイメージをしやすくなると思うのですが、いかがでしょうか。
 

スリクソン Zアイアン(525、725、925)実測値
  Z525 #5 Z525 #7 Z725 #5 Z725 #7 Z925 #5 Z925 #7
NS980-S NS980-S NS980-S NS980-S DG S200 DG S200
クラブ長さ inch 38.0 37.0 38.0 37.0 37.75 36.75
クラブ重さ g 406.7 418.4 407.5 419.1 425.8 436.0
スイングウエイト   D2.2 D2.0 D2.3 D2.0 D2.3 D2.3
クラブ慣性モーメント gcm2 275万 272万 275万 272万 278万 274万
 
ヘッド重さ g 253.8 267.3 255.5 266.9 254.7 267.1
リアルロフト deg 24.2 30.6 25.2 31.7 26.0 33.0
ライ角 deg 61.0 61.8 61.0 61.5 61.0 62.0
フェースプログレッション mm 3.3 3.7 4.0 3.9 4.0 4.4
バンス角 deg 3.7 4.1 3.7 4.2 3.5 4.0
 
重心距離 mm 34.6 33.5 35.2 35.5 34.6 35.6
重心深度 mm 2.8 2.3 2.3 1.7 1.7 1.1
スウィートスポット高さ mm 20.7 21.0 19.6 19.9 20.5 20.7
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 2,400 2,551 2,260 2,325 2,155 2,218
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 586 665 532 564 530 568
ネック軸回りモーメント gcm2 4,780 4,868 4,691 5,032 4,606 5,051

スリクソン Z725アイアン、シャフト違いによる実測値
    Z725 #5 Z725 #7 Z725 #5 Z725 #7 Z725 #5 Z725 #7
    NS980-S NS980-S DG S200 DG S200  KENA
BLUE8S
KENA
BLUE8S
クラブ長さ inch 38.0 37.0 37.75 36.75 38.1 37.0
クラブ重さ g 407.5 419.1 424.2 437.4 385.3 399.5
スイングウエイト   D2.3 D2.0 D2.2 D2.2 D1.3 D1.3
クラブ慣性モーメント gcm2 275万 272万 277万 275万 270万 267万
      
ヘッド重さ g 255.5 266.9
リアルロフト deg 25.2 31.7
ライ角 deg 61.0 61.5
フェースプログレッション mm 4.0 3.9
バンス角 deg 3.7 4.2
      
重心距離 mm 35.2 35.5
重心深度 mm 2.3 1.7
スウィートスポット高さ mm 19.6 19.9
      
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 2,260 2,325
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 532 564
ネック軸回りモーメント gcm2 4,691 5,032

※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。