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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.2 HI-BRID DIGITAL AUTOFOCUS
 

 クラブの設計をしている松尾です。最近はゴルフ雑誌からも新製品などの評価をして欲しいという依頼があり、原稿を書くことも多くなっています。この「松尾が斬る!」のコラムでは、ダンロップのクラブを検証していますが、今回は『ハイブリッド デジタルオートフォーカス』のアイアンを分析しました。「デジタルインパクト」をキャッチフレーズに、そのハイテクぶりを押し出しているダンロップ自信のアイアンです。


 まずは私の工房「ジャイロスポーツ」で、このアイアンをいろいろな角度から実測しました。クラブの長さは5番アイアンで38インチとグラファイトシャフト付きの クラブとしては標準的です。クラブ重さはSシャフトで372g(5番アイアン)、スイングウエイトはC9.8でした。Rシャフトは336gでスイングウエイトはC9.8となっています。カタログに表示されている数値と若干異なっていますが、これは前回にも書きましたようにどのメーカーにも言えることで、ダンロップはその誤差が非常に少ない優秀なメーカーであると言えます。
 クラブの振り易さの判断となるクラブ全体の慣性モーメントは、Sシャフトで267 万gcm2、Rシャフトで266万gcm2と、ほぼ市販クラブの平均値で、この値は多くの 方が振りやすいと感じるものです。
 ヘッドはオーソドックスな形状で、とても構えやすくできています。ウッド同様 にフェースのトウ側の高さを高くし、ヒール側の高さを低くした設計で、ライ角度を アップライに見せています。また、スイートスポット高さは20.5mmと、高過ぎず低過ぎ ないという的確な高さに作られています。
 スイートエリアの広さ(やさしさ)を表すヘッドの慣性モーメントは2803gcm2と 、市販ヘッドの平均値2506gcm2より非常に大きくなっています。この数値からアベレージゴルファーの打点のバラつきを大いにカバーしてくれるアイアンであることがわかります。ミスがミスにならないであろうということを、打つ前から予測できるアイアンなのです。
 こうした実測が終わり、実際に試打してみました。すると、シャフトもしっかりしているためにボールがバラつかず、非常に方向性の良いアイアンだと思いました。 また、ロフト角が超ストロングロフトで、シャフトもしっかりしていますので、やや低めの弾道が得られました。
 ドライバー同様に重心距離が長く、ネック軸回りの慣性モーメントが大きいため にフックになり難いクラブでした。このためフェースクローズの状態を意識してスイングするとよいと思います。
 また、この商品のターゲットであるヘッド速度が43m/sの方でしたら、グラファイトシャフト仕様よりも総重量 の重い軽量スチールシャフト仕様の方が、ゆっくりと タイミングよくスイングできると思いました。
 総合的に、今回の新製品『ハイブリッドデジタルオートフォーカス』の最大の特徴は、ヘッド慣性モーメントが大きくてスイートエリアが広くやさしいアイアンだということでしょう。また、ウッドはシャフトが軟らかく、アイアンのシャフトがしっかりしているので、ウッドをSシャフト、アイアンをRシャフトにした組み合わせが よいように思います。
 次回は大ヒットクラブ『ゼクシオ』のどこにそのヒットとなった秘密があるのかを分析してみましょう。


松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。