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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.5 『ゼクシオプライム』は『ゼクシオ』からどう進化したのか
 
 もう既に多くの雑誌などで宣伝されているドライバー、『ゼクシオプライム』がいよいよ発売になりました。昨年のベストセラーである『ゼクシオ』(ここではレギュラーモデルと呼ぶことにします)に、初めてヘッドを変更したモデルが追加されたわけです。クラブ好きのゴルファーにとって、その注目度は計り知れないところでしょう。広告宣伝では、「最上級の飛び・高反発飛距離重視モデル」とありますので、とても楽しみです。
 今回はその『ゼクシオプライム』の、10度のSRシャフトと11.5度のRシャフト仕様の各々のヘッドを計測し、その中身をじっくり検証してみました。

1.振りやすくなった『プライム』
   まずクラブを持った時に感じるのは、軽く振りやすくなったことです。クラブ総重量はレギュラーモデルよりもわずか4~5g軽いだけなのですが、振りやすさには大きく影響しています。データ表のクラブ慣性モーメントを見ますと、約5万gcm2小さくなっています。この5万gcm2の意味は、クラブ長さにして半インチ短いクラブに相当しますので、かなり振りやすくなったと言えるでしょう。
 
2. 大きくなったヘッド
   ヘッドの輪郭形状はほぼレギュラーモデルと同じで、全体に1.5mmほど大きくなっています。ただし、フェースの形状は変更されており、トウヒール方向に約3mm短くなり、高さ方向に約2mm高くなっています。これは、フェースの反発性能を改善するためにフェースの縦横比率をより円形に近づけたためだと思われます。
 余談ですが、もし皆さんの中で、初めてこのプライムを手にされた時に、「フェースの感じがレギュラーモデルと違う!」と思われた方は、クラブを見る良い目を持っているといえます。なぜなら、フェースが短くなった分、ヘッドのトウ側とのつながりがレギュラーモデルとは違うからです。
 
3. 薄くなったフェースの厚み
   このプライムの特徴のひとつに、フェースの中央部に15-3-3-3というβ型チタンの板材が使われていることがあげられます。このβ型チタンは、鋳造された6-4チタンよりも強度がありますので、薄肉にすることが可能です。
 そしてプライムのフェース厚み(中央ミラー研磨部)を超音波測定器で計測したところ、

 1) フェース中央部:2.55mm
 2) フェース上部:2.43mm
 3) フェース下部:2.37mm
 4) フェーストウ部:2.47mm
 5) フェースヒール部:2.49mm

となっており、他社モデルと比べてもかなり薄くなっていました。
 
4. 操作性が良くなったヘッド
   レギュラーモデルと比べて約20cc大きくなったプライムですが、ヘッドの操作性が良くなっています。通常ヘッドの操作性(ヘッドの返りやすさ)については重心距離を用いて説明されていますが、正しくはヘッドの回転のしやすさですから、ネック軸回りの慣性モーメントの数値の大小を見ることです。
 『プライム』のこの数値を見ますと、レギュラーモデルが約4700gcm2で、これでも十分ボールのつかまりは良いのですが、プライムは約4400gcm2とさらに小さくなり、よりヘッドの返りが良くなっています。『ゼクシオ』シリーズの中では最も操作性が良く、つかまりの良いヘッドです。スライサーの方に適しているといえます。
 
5. 手元調子になったシャフト
   『プライム』のシャフトは、レギュラーモデルよりも4g軽くなったプライム専用シャフトで、クラブの総重量を下げるのに寄与しています。そしてこの専用シャフトは、レギュラーモデルよりも手元調子になっています。『プライム』が、よりヘッド速度の遅いゴルファーのために開発されたものでありながら、レギュラーモデルよりも手元調子にしたのはなぜでしょうか。
 手元調子とは、シャフトの先側(ヘッド寄り)を硬めにしたものですから、インパクト付近でヘッドの動きを安定させる効果があります。ただし、逆に手元部が比較的軟らかめになりますので、手首の動きが暴れる方にはタイミングが取りづらくなるでしょうし、ボールは上がりにくくなります。一般にシャフト重さが45g前後になりますと、シャフトの先側の強度が不足しがちになりますので、それを改善するために先側の強度を上げたり、またトルクをより小さくしようとして、シャフトの先側が硬くなってしまい、手元調子になるというわけです。
 
ゼクシオプライムとレギュラーモデルの比較 (実測値)
  プライムSR-10° プライムR-11.5° レギュラー
モデルR-10°
レギュラー
モデルR-11°
クラブ長さ(inch) 45.9 45.9 46.0 46.2
クラブ重さ(g) 282.0 281.3 285.7 287.4
スイングウエイト D0.5 D0.5 D1.8 D1.0
クラブ慣性モーメント(gcm2) 285万 286万 290万 289万
         
ヘッド重さ(g) 187.3 187.3 188.3 187.6
ヘッド体積(ml) 327 329 308 306
リアルロフト角(deg) 10.5 13.3 10.7 12.0
         
ネック軸回りモーメント(gcm2) 4339 4483 4704 4613
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 3094 3106 3067 3084
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 1946 1936 1787 1790
※プライム11.5度のヘッドのデータは2個の平均値です。
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。


 以上のようにクラブの特徴を説明してきましたが、最後に松尾好員の「勝手な一言」を付け加えたいと思います。

1) クラブ長さが長い
   この『プライム』は、「ヘッド速度が35m/s前後の方に、もっと飛距離を出させてあげたい」とのことで46インチという長さ設定にしたのだと思いますが、せっかくの超軽量でつかまりの良いヘッドなのですから、クラブ長さを45~45.5インチにして、クラブ慣性モーメントを小さくし、もっと振り切れるクラブにしてもよかったのではないかと思います。
 
2) 11.5度のRシャフトがイチオシのスペック
   『プライム』はロフト角とシャフト硬度の組み合わせで、4種類のクラブを選べるわけですが、私は11.5度のRシャフトがベストなスペックだと思います。11.5度のヘッドはリアルロフトが13度ありますし、より軟らかいシャフトを選んだ方がタイミングも取りやすいですので、ヘッド速度が35m/s前後の方にはこれで決まりでしょう。
 
3) 『ゼクシオ』のフルモデルチェンジにも期待
   今回の『プライム』では、220~230ヤードか、それ以上飛ばせる方にとっては明らかに「軽い、軟らかい」のアンダースペックです。これらのゴルファーには、おそらく今のレギュラーモデルの方が飛距離が出ると思います。
 私個人としては、次の『ゼクシオ』のフルモデルチェンジに大いに期待をしたいと思います。
 

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。