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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.6 クラブの最適セッティングを考える
(フェアウェイウッドとユーティリティの組み合わせ方)
 
 「ユーティリティクラブ」は、今やしっかりと、ゴルファーの間で市民権を得たように思います。しかし、ユーティリティクラブの出現によってクラブセッティングの選択肢が大きく広がったことで、逆にどのようなチョイスが自分のゴルフにとってよいのか、大いに悩むところでしょう。
 そこで今回は、今秋にユーティリティクラブが追加発売された『ハイブリッド デジタルオートフォーカス』を取り上げて、実際にそのフェアウェイウッドとユーティリティ、そしてロングアイアンを打ってみて、私なりのお勧めセッティングを考えてみたいと思います。

 クラブはすべて、Rシャフトを試打しました。ヘッドスピードが40~42m/sのゴルファーに実際に打ってもらったテスト結果です。
 まずは飛距離の結果を報告します。

1) フェアウェイウッドのW#3で215ヤード。W#4では210ヤード。
2) フェアウェイウッドのW#5で200ヤード。
  ユーティリティのU#5では195ヤード。
3) フェアウェイウッドのW#7で195ヤード。
  ユーティリティのU#6では192ヤード。
4) ユーティリティのU#7は183ヤード。
  3番アイアン(I#3)は185ヤード。
  4番アイアン(I#4)では178ヤード。
 でした。
 次に、その内容を詳しく見たいと思います。

1) フェアウェイウッドのW#3で215ヤード。W#4では210ヤード。
   今回飛距離の差が5ヤードしかなかった理由は、クラブの長さにあると思います。W#3の方がもちろん長いので、W#4に比べてわずかにヘッド速度は上がりますが、逆に短いW#4の方がミート率が良いので、飛距離の差が縮まったのです。またW#4の方が高い弾道でキャリーで飛距離が稼げるのも見逃せないところです。私にはW#4が特にやさしく感じました。
2) フェアウェイウッドのW#5で200ヤード。
   フェアウェイウッドW#5のリアルロフトが19.3度で、U#5が18.0度とU#5の方が立っているのですが、フェアウェイウッドのクラブ長さが約1インチ長いのでヘッド速度が約1m/s速くなり、結果ややW#5が飛んでいました。
 しかし、弾道は全く違います。W#5では弾道は高く、キャリーで195ヤード出て、グリーンで止められます。一方、U#5では弾道が低めで、キャリーでは185ヤードでした。バンカー越えでグリーンをキャッチしてもオーバーする事が多くなるでしょう。
 その反面、U#5はクラブ長さが約41インチとW#7よりもまだ短いですから、フェアウェイウッドが苦手な方(フッカーで、あおり打ちの方に多い)にはボールをとらえやすいでしょう。アゲンストの風にも強く、パー5のセカンドショットなどにも有効でしょう。
3) フェアウェイウッドのW#7で195ヤード。
   前項と同様、W#7のリアルロフトが20.7度で、U#6が19.0度とU#6の方が立っているのですが、W#7のクラブ長さが約1インチ長いので、ヘッド速度が約1m/s速くなります。しかし、W#7のバックスピンもやや増加傾向にあり、ボールが高くなってきます。
 このために飛距離の差が出にくくなってしまいました。弾道についても前項同様で、W#7が打てればグリーンにキャリーさせて止めることができるでしょう。U#6ではU#5ほどではありませんが、やはりランがでます。U#6を使うには、このランを有効に使うと良いでしょう。
4) ユーティリティのU#7は183ヤード。
   U#7のリアルロフトが23.0度で、I#3のリアルロフトが20.0度です。これもウッドとユーティリティの比較と同じように、U#7ではヘッド速度が速くなりますが、その分バックスピンも多くなり、弾道が高くなるキャリーボールとなります。
 一方、I#3ではうまく打っても弾道は低く、バックスピンが少なく、ランが10ヤードは出ます。その結果、飛距離はI#3がやや上回りました。それにしてもこのI#3は本当に打ちやすいです。重心は低く、慣性モーメントも大きいので、非常に良くできたアイアンといえます。
 また、I#4ではややボールが上がって178ヤードとなり、I#3とは8ヤードの差でした。これは、I#3とI#4のロフト差が2.5度と狭い設定(通常は3~4度)だからで、I#4が標準より飛ぶと言えるでしょう。

 さて、以上の結果から、私が考えるセット組は次の通りです。

A. フェアウェイウッドが得意で、ティショットでドライバーのかわりにW#3を使うことがある方は、フェアウェイウッドはW#3・W#5・W#7の3本。アイアンはI#4から。ユーティリティは不要です。
B. フェアウェイウッドが得意で、ティショットでW#3が必要ない方は、フェアウェイウッドはW#4・W#7の2本。ユーティリティのU#7。アイアンはI#4から。
C. フェアウェイウッドが苦手な方で、練習せずにスコアメイクしたい方は、ユーティリティをU#5・U#6・U#7の3本。アイアンはI#4から。
D. フェアウェイウッドが苦手だが、練習もしてフェアウェイウッドも使ってみたい方は、フェアウェイウッドはW#4・W#7の2本。ユーティリティはU#6(W#7で打ちにくそうな時に使う)とU#7の2本。アイアンはI#4から。

 お気付きのように、全てのセット組に3番アイアンを入れていません。なるほど打ちやすい3番アイアンですが、プロでも打ちこなすのは難しいのですから、一般のアマチュアはバッグに入れる必要はないと思います。

 最後に、今回クラブを計測して感じたことを書きます。
 最近ではフェアウェイウッドやユーティリティーのクラブで、番手間のロフト間隔が2度のものを多く見かけるようになりました。しかし、ロフト間隔が2度では時として次の番手と同じリアルロフトになっている場合もあり、飛距離が変わらないクラブも多く見てきました。このデジタルオートフォーカスではそのような事がなく安心しましたが、実は、私がお勧めセッティングの中で続きの番手をできるだけ避けているのは、このためなのです。
 また、ご参考までにもし、私自身がデジタルオートフォーカスを選ぶとしたら、次のセッティングにすると思います。
1) W#3:但し、ややロフトの少ない目を選ぶ(ティーショットでの使用も考慮して)。
2) W#5:標準でOK。
3) W#7:但し、ややロフトの多い目を選ぶ。
4) I#4:I#3はやはり難しいから。
 私は、フェアウェイウッドの場合、ロフト角が4度差で飛距離が約15ヤード違いますので、このセッティングがちょうど良いと思われます。グリーンを狙うショットで球を止めたいから、フェアウェイウッドを多様することにします。

 さぁ、皆さんはどのようなセッティングにされますか?

 次回(第7回)は、いよいよ待望の『NEWゼクシオ』を取り上げます。以前、このコラムで私がした「進言」を取り入れてくれたかどうか、私自身も楽しみです。

■ハイブリッドデジタルオートフォーカス実測値
  W#3 W#4 W#5 W#7 U#5 U#6 U#7 I#3 I#4
クラブ長さ 43.0 42.5 42.0 41.4 40.9 40.4 40.0 38.6 38.3
クラブ重さ 301.0 306.2 307.0 313.3 334.2 339.4 341.4 360.0 362.4
スイングウエイト D0.2 D0.4 C9.8 D0.0 C9.8 C9.7 C9.8 C8.3 C9.0
クラブ慣性モーメント 278万 277万 275万 273万 274万 272万 272万 265万 265万
ヘッド重さ 204.3 --- --- 220.2 --- 227.5 --- 245.1 ---
ヘッド体積 174 159 146 134 123 129 130 --- ---
リアルロフト角 15.0 17.0 19.3 20.7 18.0 19.0 23.0 20.0 22.7
ライ角 56.7 58.0 59.0 60.5 58.0 60.5 59.5 59.8 60.0
フェース角 0.0 0.8 1.5 1.3 1.0 1.0 2.0 --- ---
フェースプログレッション 18.0 18.7 19.8 20.0 15.3 16.1 19.3 1.4 2.2
クラブ長さ:inch クラブ重さ:g クラブ完成モーメント:gcm2 ヘッド重さ:g ヘッド体積:ml リアルロフト角:deg ライ角:deg フェース角:deg フェースプログレッション:mm
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。