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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.7 「NEWゼクシオ」はどう進化したか
~その1 レギュラーモデルドライバー編~
 
 2000年から2001年の間、ベストセラーを続けたゼクシオが、ついにモデルチェンジを行いました。そのNEWゼクシオはすでに多くの雑誌にも取り上げられていますので、このページをご覧になる方も、それがどのようなクラブなのか、よくご存知のことだと思います。さっそく購入された方もいらっしゃるのではありませんか?販売絶好調と聞いています。
 一般的にフルモデルチェンジは1年半ごとに行われますが、このNEWゼクシオは2年を経過していますので、その進化の度合いは大きいはずです。今回は、9度のSシャフト、10度のRシャフト、そして11度のR2シャフト仕様のクラブとヘッドを計測して、その正体をじっくり検証してみました(データ表には初代ゼクシオも載せておきます)。

1. 振りやすくなったNEWゼクシオ
   まずクラブを持った時に感じるのは、クラブが格段に振りやすくなったということです。初代ゼクシオは、その発売当時が長尺の流行の中にいましたので、長尺の中ではかなりやさしいクラブでしたが、やはり46インチシャフト装着では振りやすくすることに限界がありました。今回は、時流がその長尺を見直そうとしているので、クラブ長さを45インチと正統な長さにしたため、振りやすさが大幅に改善されています。
 クラブ総重量は前モデルとほぼ同じですが、振りやすさには大きく影響しています。
データ表のクラブ慣性モーメントを見ますと、初代モデルより約5~6万gcm2小さくなっています。この5、6万の差の意味は、アイアンクラブにして3~4番手の差に相当しますので、かなり振りやすくなったと言えるでしょう。初代モデルでは扱いにくかったという方も、今度はしっかり振り切れるはずです。

2. 飛び系になったヘッド
   初代モデルはやさしいクラブを作ろうと開発されたと思いますので、飛びよりもやさしさが優先されていたと思います。そして、実際に何十万人もの方が初代モデルを愛用されたのですから、一方ではやさしさ・安定感がいかに大切かが証明されたわけです。
そして、今回のNEWゼクシオは、そのやさしさに加え、「飛び」の要素が多く取り入れられています。その秘密を検証してみましょう。

1)鍛造のカップ型フェース
 近年、フェースの反発についての研究が進み、フェースには薄肉β型チタン材を使用することが常識的になってきました。一方、ダンロップでは古くからボールとヘッドのインピーダンスマッチングの研究が行われており、その結果、今回は「カップ型フェースの採用」となっています。カップ型フェースとは、「カタカナのコの字型」にフェース部が作られていることで、フェース面に溶接箇所を持たないので、より反発が高くなると言われています。このカップ型に鍛造する技術はたいへんに高度で難しく、どんなメーカーでもできるというものではありません。フェース素材はSP-700で、この材料は広く多くのメーカーに使われているものです。SP-700を使うと比較的ヘッドの音や打感が良いと言われていますので、音にこだわる方にとっては適材と言えるでしょう。

2)低重心設計
初代モデルはどちらかと言えば高重心設計で、比較的ボールのバックスピン量が多く、見た目には綺麗な伸びの有る弾道を描くのですが、ややアゲンストの風に弱いと言う弱点がありました。しかし、今回は他のメーカーと比べてもかなりの低重心化がなされているため、アゲンストの風にもボールが吹き上がりにくくなっています。風に強いパワフルな弾道で、大きく飛んでくれるのです。

3. やさしくなったヘッド
   別表を見ていただきますとわかりますように、NEWゼクシオは体積が350cm3と、初代ゼクシオよりも45cm3程度大きくなっています。このためにヘッドの慣性モーメントが10%強大きくなり、スウィートエリアが大きくなっています。したがって、打点のばらつく方にとってはより安心できるヘッドとなっています。

4. ねじれにくくなったシャフト
   NEWゼクシオに装着さていれるMP-200カーボンシャフトは、初代ゼクシオのMP-100と比べて重量はほとんど変わりませんが、大型ヘッドに対応すべくねじれ(トルク)が改善されています。大型ヘッドになりますと、ヘッドの重心の位置がシャフト軸よりもどうしても遠くなり、スイング中にシャフトがねじれようとしてしまいます。そのねじれようとした動きが手に伝わり、短いダウンスイング中にスイングのタイミングを狂わせてしまうことがあります。また、わずかなズレがインパクトを狂わせる原因ともなります。したがって、350cm3クラスの大型ヘッドには、しなやかにしなりながらもねじれにくいシャフトを装着する必要があるのです。
その点MP-200シャフトは良くできたシャフトであると言えます。

5. 購入する際のアドバイス
  いままではNEWゼクシオドライバーの特徴を説明してきましたが、これから購入を考えていらっしゃる方のために、ちょっとしたアドバイスを書いてみます。

1)初代ゼクシオよりもロフトを1度増やそう
 今回のNEWゼクシオは、かなりの低重心ヘッドとなっているため、ボールのバックスピン量が少なくなって飛距離が大きく伸びるわけです。ところが、使用するボールも低スピンのものであったりすると、バックスピンが少なくなり過ぎて、ボールがドロップしてしまう可能性があります。そこでそのような場合は、打ち出し角度を上げてやった方が飛距離が出ますので、初代ゼクシオでは10度のロフトで良かった方は、今回は11度を試してみることをおすすめします。

2)少しフックフェースなものを選ぼう
 別表をご覧になるとおわかりになりますが、NEWゼクシオはヘッドの返りやすさの指標である「ネック軸回りのモーメント」が初代モデルに比べて大きくなっています。これは、数値が大きいほどヘッドが返りにくいことを表しています。ヘッドが大きくなりますと、どうしてもつかまりが悪く感じるのはこのためなのです。したがって、NEWゼクシオの方がヘッドが返りにくいと思いますので、スライサーの方やもっとボールをつかまえたい方は少しフックフェースなものを選ばれると良いでしょう。


 確かに初代モデルから時間が経過していることもありますが、モデルチェンジでこれほど進化している例は少ないと思います。とても打ちやすいが特段には飛ばない、と言われた初代モデルはそろそろ卒業ではないでしょうか。短くなって振りやすく、フェースの反発も良く、低重心で吹き上がらないNEWゼクシオの品質は、信じて良さそうです。
次回は、フェアウェイウッドとアイアンの進化について検証します。


 
NEWゼクシオ実測値と、初代ゼクシオとの比較(レギュラーモデルドライバー)
 
  NEWゼクシオ 9 S NEWゼクシオ 10 R NEWゼクシオ 11 R2 初代ゼクシオ10 R 初代ゼクシオ11 R
クラブ長さ(inch) 45.1 45.0 44.9 46.0 46.2
クラブ重さ(g) 292.0 287.0 286.4 285.7 287.4
スイングウエイト D1.7 D1.5 D1.0 D1.8 D1.0
クラブ慣性モーメント(gcm2) 286万 285万 283万 290万 289万
           
ヘッド重さ(g) 194.7 195.2 194.2 188.3 187.6
ヘッド体積(ml) 350 352 354 308 306
リアルロフト角(deg) 10.0 11.2 11.8 10.7 12.0
ライ角(deg) 56.3 55.5 56.0 55.5 55.0
フェースプログレッション(mm) 18.9 20.5 20.3 18.8 19.5
           
ネック軸回りモーメント(gcm2) 5764 5683 5975 5310 -----
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 3369 3409 3405 3067 3084
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 2038 2057 2035 1787 1790
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。