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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.8 『NEWゼクシオ』はどう進化したか
~その2 レギュラーモデル FW&アイアン編~
 
 『NEWゼクシオ』は今年1月の発売以降、店頭でまさに"ひとり勝ち"のごとく売れまくっているようです。前回ご報告したように、レギュラーモデルドライバーは確かにその進歩が著しかったわけですが、はたしてFWやアイアンはどうでしょうか?
 今回、FWの中から#3・#5・#7を、アイアンは#5を選んで、その正体をじっくり検証してみました。なお、アイアンは「MP200カーボンシャフト」装着モデルが今回の対象となっています。スチールシャフト装着モデルは次回、ツアーモデルウッドとともにご報告します。

■レギュラーモデルFW
 まずカタログ値を見ますと、FWのロフト角、ライ角、そしてフェース角は前モデルと全く同じであることがわかります。そして、クラブ重さもわずかに1gだけ軽くなっただけです。これは、おそらくクラブの基礎となるスペックは完成されていて、フルモデルチェンジだからと言っても変える必要がないと判断されたからでしょう。
 では、どういうFWなのでしょうか? まず、ヘッド材質ですが、これは6-4チタンが選択されています。通常FWの材質にあえてチタンを使うということは、かなり大きなヘッドを作りたいか、それとも小さめに抑えて極端な重心位置にした特徴のあるヘッドにしたいか、のどちらかです。『NEWゼクシオ』のFWはヘッドが大きくはないので、明らかに後者の理由でチタンが選ばれたのです。では、どういった特徴があるのでしょうか?

1. 振りやすいFW
 #3は、43インチの設定で、クラブ重さが297g(Rシャフト)と非常に軽くなっています。このために、クラブ慣性モーメントも277万gcm2と非常に小さく、ヘッド速度が38m/s以下の方に向いているでしょう。ドライバー同様に、とても振りやすいクラブに仕上がっています。
2. 球が上がりやすいFW
 重心深度は約37.5mmで、非常に深くなっていることがわかります。通常ドライバーでも約35mmですから、この37.5mmは本当に深く、インパクトロフトを大きくして球を上げるのに役立っています。実際に試打しても、他社の同じロフトのものに比べて明らかに高い弾道になり、『NEWゼクシオ』の#5でしたら他社の#7の感じでボールが上がっていきます。したがってボールを止めやすいので、ピンをデッドに狙う攻め方ができそうです。
3. つかまりが良いFW
 ややフックフェースの設定と、28度前後の大きな重心角により、ボールのつかまりは抜群です。初代モデルと同様に、このつかまりの良さは継承されており、スライス系の方にとってはドローボールの打てる強い味方となるでしょう。
4. 私からの提言
 ただ、少し気になっていることがあります。
1)クラブが軽すぎるのでは?
 ドライバーと比べて、FWのクラブ重さが軽すぎるのではないでしょうか? 次回評価させていただくツアーモデルのスペック(カタログ値)を見ますと、ドライバーよりも#3は13g重くなっています。一般にドライバーとの長さが2インチ違う#3の場合では、このツアーモデルのようにドライバーとの差を10~15gくらいにするのが適正です。ですから、このレギュラーモデルFWがそのドライバーよりもわずか6gしか重くなってはいないというのは、FWが軽すぎるのではないかということになります。したがって、レギュラーモデルFWを使うときには、打ち急がないようにされた方が良いと思います。
2)レギュラーモデルで#3のロフト14度は辛いのでは?
 初代モデルもそうでしたが、トップアマにとってはこのロフト14度の#3は飛距離の出るスプーンとしてたいへん重宝されていました。しかし、アベレージクラスも使うレギュラーモデルとして考えますと、14度ではフェアウェイからは打てないのではないでしょうか? できればレギュラーモデルの#3は15~16度に設定して欲しかったと思います。
3)価格が高過ぎないか?
 チタンでFWを作ることを決められたので仕方がありませんが、できればダンロップの技術力で同じような性能を持つステンレスヘッドのFWにして欲しかったです。最近の経済情勢では、7万円のFWはやはり高いと思います。

■アイアン(MP200カーボンシャフト)
 これまで雑誌などのコメント(もちろん私のものではありませんが)で、『NEWゼクシオ』のアイアンは、初代モデルからあまり変わっていないと書かれているのを見かけたことがあります。確かにカタログを見る限りではミドルアイアンのロフトが1度立ったことと、クラブ重さが5g軽くなったこと、そしてキャビティー部分のデザインが新しくなったくらいのように思えるかもしれませんが、実は中身はかなり進化しています。

1. 振りやすくなったアイアン
 クラブ重さが約5g軽くなり、その結果、クラブ慣性モーメントが2万gcm2も下がりました。このクラブ慣性モーメントの2万gcm2は、番手にして1番手の振りやすさの違いがあります。つまり、『NEWゼクシオ』の5番アイアンは、初代モデルの6番アイアンに相当しますので、より楽に振りやすくなっています。ヘッド速度の遅めの方でも十分振り切ることができるでしょう。
2. 球が上がりやすくなったアイアン
 前モデルよりも重心深度が5.2mmと3mmも深くなりました。また、スウィートスポット高さも20.6mmとかなり低くなり、球が上がりやすくなりました。この重心深度とスウィートスポット高さとのバランスはまさに絶妙で、良いヘッド形状を維持しながらでは、そう簡単に達成できる数値ではありません。この設計バランスこそが、『NEWゼクシオ』の真髄とも言えるでしょう。
3. 私からの提言
 『NEWゼクシオ』アイアンは、現在、他のメーカーにとって必ずと言って良いくらい比較対象のクラブとなっています。それだけライバル各社が注目している完成度が高いクラブなのです。しかし、私なりに気になっている点もあります。
・ライ角度がフラット過ぎないか?
 『NEWゼクシオ』になって重心距離は1.3mm短くはなりましたが、依然として重心距離が長くヘッドの返りが遅いアイアンの部類に入ります。ドライバーはつかまりが良いのに、アイアンはどちらかと言えば左に行かないクラブです。したがって、左に行かせたくない上級者に向いていますし、実際にそういった層の支持も高いはずです。
 ですから、アベレージゴルファー向けには、カタログ値の「#5でライ角が60度」ではフラット過ぎると思いますし、実測でもややフラット傾向にありますので、少し残念です。私見ですが、あと1度アップライトにすれば、もっと素晴らしいアイアンになると思っています。


 アイアンに関しては、ヘッドの大きさやグース度についても多少意見があるのですが、これらは、次回の「ツアーモデルドライバーとスチールシャフトアイアン」の時にコメントしたいと思います。


NEWゼクシオ実測値
 
レギュラーモデルFW
  NEWゼクシオ
W#3 14°R
NEWゼクシオ
W#5 18°R
NEWゼクシオ
W#7 20°R
クラブ長さ(inch) 43.1 42.0 41.6
クラブ重さ(g) 296.9 304.8 307.4
スイングウエイト D0.5 D0.3 D0.3
クラブ慣性モーメント(gcm2) 277万 274万 272万
       
ヘッド重さ(g) 203.4 212.7 217.3
ヘッド体積(ml) 165 143 133
リアルロフト角(deg) 13.6 17.0 19.2
ライ角(deg) 57.0 58.5 58.8
フェースプログレッション(mm) 17.9 20.0 21.2
       
ネック軸回りモーメント(gcm2) 4613 4778 4519
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 2251 2111 2035
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 1292 1175 1112
アイアン
  NEWゼクシオ I#5 R 初代ゼクシオ I#5 R
クラブ長さ(inch) 38.0 37.9
クラブ重さ(g) 355.5 361.4
スイングウエイト C9.5 D0.0
クラブ慣性モーメント(gcm2) 262万 264万
     
ヘッド重さ(g) 249.7 254.0
ヘッド体積(ml) ----- -----
リアルロフト角(deg) 25.0 26.0
ライ角(deg) 59.4 60.2
フェースプログレッション(mm) 1.4 0.6
     
ネック軸回りモーメント(gcm2) 6482 -----
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 2692 2809
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 628 680
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。