「松尾好員が斬る!」はリニューアルしました。2015年以降の記事はこちらをご覧ください。
バックナンバー

クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.9 『NEWゼクシオ』はどう進化したか
~その3 ツアーモデルドライバー&スチールシャフトアイアン編~
 
 『NEWゼクシオ』シリーズの検証も今回のツアーモデルで最後となりました。
発売以来、売上げ絶好調と聞いている『NEWゼクシオ』ですが、上級者を対象としたこのツアーモデルの仕上がりはどのようなものでしょうか?
 今回、8度のXシャフト、9度のSシャフト仕様のドライバー、そしてツアーモデルに対応するものとしてスチールシャフトの5番アイアンを試打・計測して、その中身をじっくり検証してみました。
(データ表にはレギュラーモデルも載せておきます)

1. ヘッド速度の速い方に適したツアーモデル
 まずクラブを持った時に感じるのは、クラブの重みをしっかりと感じられることです。
確かにレギュラーモデルは軽くて振りやすいのですが、飛距離が250ヤード以上出るプレーヤーにとっては、軽すぎてスイングできません。今回のツアーモデルのドライバーは、クラブ総重量がSで314g、Xで318gとなり、パワーのあるプレーヤーにとってはちょうど振りやすくなりました。
 実際データ表のクラブ慣性モーメントを見ますと、Sシャフトで291万gcm2となり、ヘッド速度が45m/sあるプレーヤーにマッチしていますし、Xシャフトでは293万gcm2となり、ヘッド速度が47m/s以上あるプレーヤーにマッチしています。
 また、アイアンは日本シャフトの軽量スチールNS950が装着され、MP200シャフト仕様の軽いアイアンからすれば、ある程度重量感を出しています。
2. 絶対に左には行かせないヘッド形状
 ではツアーモデルはレギュラーモデルとどこが違うのでしょうか?クラウンマークが無いだけではありませんよ(笑)。
 よく見るとヘッド形状そのものが違います。ツアーモデルではヘッドの横幅が少し広くなり、ヘッドの長さが短くなりました。ですから構えるとツアーモデルの方が全体に丸く見えます。しかしデジタル設計により、重心距離や重心深度は同じに設定されています。
 フェース角度の設定もがらりと変わりました。レギュラーモデルはフックフェースでしたが、ツアーモデルはストレート、いやむしろオープンフェースにも見える設定になりました。明らかに開発者が左へのボールを嫌った設定となっていますので、日頃強いフックに悩んでおられる方にとってはお助けクラブとなるでしょう。
一方、アイアンについては基本的にはMP200用のヘッドと同じです。(ネックの内径が違うだけです)
3. 飛びを考慮したドライバーヘッド
 別表を見ていただきますとおわかりのように、ツアーモデルはレギュラーモデルに比べて体積が小さくなっています。しかし、フェース高さは約2mm高くなり、さらにディープフェースになりました。ところが、スウィートスポット高さは約1mmしか高くなっていませんので、実質レギュラーモデルよりも低重心になっているのです。
 このために、ボールのバックスピン量が少なくなり、アゲンストの風にも負けない強い球を打ちやすくなりました。ボールの打ち出し角度さえ出せれば、このツアーモデルは飛距離が出ます。
4. 軽くなったV24シャフト
 『NEWゼクシオ』のツアーモデルにはV24シャフトが装着されていますが、初代ツアーモデルに装着されていたV21シャフトよりも約5g軽量化されました。上級者向けといってもシャフト重量が軽くなるのは当然のことで、ツアープロにおいてもシャフトは年々軽量化されています。USPGAツアーにおいても70g台のシャフトを使う選手が増えているのです。
 V24シャフトは、レギュラーモデルのMP200同様にシャフトの先側が太い設定で、先側の剛性感を出しています。また、初代ツアーモデルとは違い、グリップの太さも適切に改善されています。
5. 購入する際の注意点
 ツアーモデルドライバーの特徴を中心に説明してきましたが、購入を考えていらっしゃる方のためにちょっとした注意点を書いてみます。

1)ロフトを1度増やそう
 今回はかなりの低重心ヘッドとなっています。ツアーモデルを選ぼうとされている方は、そもそもヘッド速度が速いはずですが、レギュラーモデルよりも1度ロフトの多いものを選ばれた方が良いでしょう。なぜならば、ツアーモデルはバックスピンが少ないボールとなりますので、打ち出し角度を上げてやったほうが飛距離が出るからです。つまり、通常9度で良かった方は、今回は10度を試してみましょう。
 またこのツアーモデルは、ヘッド速度が45m/s以上ないと、ボールのバックスピンが少なくなりすぎてボールがドロップしてしまう可能性があります。したがって、250ヤード程度飛ばせる方はツアーモデルを、そうでない方は無理せずレギュラーモデルを選ぶようにしてください。

2)スライス系の方はご注意を
 別表をご覧になるとおわかりいただけますが、ヘッドの返りやすさの指標である「ネック軸回りのモーメント」は標準的な数値を表しています。構えてみればわかりますが、今回のツアーモデルは、「ストレート~オープンフェース」の設定ですので、スライス系の方がドローを打つ設定ではありません。逆にドロー系の方は安心して叩けるのですが。というわけで、ボールをつかまえたい方はあらかじめ注意をされた方が良いと思います。ヒール側に少し鉛を貼るとヘッドの返りが良くなります。
6. 個人的なリクエスト
 このようにツアーモデルを見てきますと、レギュラーモデルとの差が非常に大きいことがわかってきました。クラブの重さは的確で、飛距離性能は一級品なのですが、ややフェース角度が厳しく、ボールのつかまりの点では難しすぎるかな、という気がします。本音は、もう少しやさしくしても良かったのでは?という感じです。
 また、アイアンにはツアーモデルがなく、スチールシャフト仕様でもツアーモデルドライバーとのマッチングが完全でないのが残念です。レギュラーモデルと同等のヘッドでは上級者には大きすぎますし、シャフトもNS950では軽すぎます。
 ぜひぜひ、真の意味で「ツアーモデルアイアン」といえるものを早く発売して欲しいです。こう願っている中・上級者の方はきっと多いはずです。
NEWゼクシオツアーモデルとレギュラーモデル実測値比較
 
  ツアーモデル W#1 8°X ツアーモデル W#1 9°S レギュラーモデル W#1 9°S NS950アイアン I#5 R MP200アイアン I#5 R
クラブ長さ(inch) 44.9 45.0 45.1 38.0 38.0
クラブ重さ(g) 317.9 314.0 292.0 394.5 355.5
スイングウエイト D2.8 D2.0 D1.7 D1.0 C9.5
クラブ慣性モーメント(gcm2) 293万 291万 286万 271万 262万
           
ヘッド重さ(g) 194.3 196.2 194.7 252.5 249.7
ヘッド体積(ml) 334 340 350 ---- ----
リアルロフト角(deg) 8.8 10.2 10.0 24.3 25.0
ライ角(deg) 56.0 56.0 56.3 59.2 59.4
フェース角(deg) スライス2.0 スライス1.0 0.0 ---- ----
フェースプログレッション(mm) 16.9 19.2 18.9 0.5 1.4
           
重心距離(mm) 35.1 35.3 35.4 39.2 39.8
重心深度(mm) 34.4 36.1 36.2 5.1 5.2
フェース高さ(mm) 56.1 56.1 53.8 ---- ----
スウィートスポット高さ(mm) 33.2 32.9 32.0 20.6 20.6
ネック軸回りモーメント(gcm2) 5598 5726 5764 6572 6482
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 3225 3320 3369 2760 2692
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 1992 2040 2038 648 628
※フェース角は、計測方法がいくつかあり、同じヘッドでも異なる数値が出ることがあります。ダンロップの計測方法では、フック側に強めに値が出ます。
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。