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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.10 『スリクソン』クラブを検証する
~その1 W-201ドライバー・フェアウェイウッド編~
 
 「ゼクシオ」ブランドのクラブが発表されて以来、ダンロップといえば「ゼクシオ」と言われるくらいイメージが定着しました。一方ではこれまで、ツアープロや上級者のためのプロモデルがフラッグシップとして存在していましたが、近年はすっかり影をひそめていました。その間、ダンロップの上級者モデル愛用者は、新しいクラブの登場を待ちつづけていたに違いありません。そして今春、本格的モデルがようやく「スリクソン」ブランドで登場したのです。『W-201』がそれです。時間をかけただけに、しっかりと作り上げられたクラブと評判のようです。
 今回は、その『W-201』から、9度のSシャフト、10度のSRシャフト仕様のドライバー、そしてフェアウェイウッドの#3と#5を試打・計測して、その中身をじっくり検証してみたいと思います。(いつものように実測データを載せておきます)

1. 対象ユーザーに見合った振りやすいクラブ
 このクラブの対象ゴルファーを考えますと、まず飛距離が240ヤード以上出るプレーヤーということになるでしょう。つまり一般的には「飛ばし屋」と言われている方々であり、ヘッドスピードで言えば少なくとも44m/s以上の方が対象となります。今回の『W-201』のドライバーは、クラブ総重量がSで314g、SRで311gとなっています。クラブ慣性モーメントはSシャフトで291万gcm2であり、ヘッドスピードが45~46m/sあるプレーヤーにマッチしています。またSRシャフトでは287万gcm2となり、ヘッドスピードが43~44m/sあるプレーヤーにマッチしています。
 このように対象ユーザーがある程度限られている場合は、クラブ長さと重さの関係、つまりクラブ慣性モーメントの適合が極めて重要になります。皆さんも実感していると思いますが、タイミング良く振れるクラブが飛ぶクラブですので、この『W-201』はまず長さ、重さについては上級者にとって的確なクラブであると言えるでしょう。
2. ハイドローな弾道を打ちやすいドライバーヘッド
 上級者を対象とする場合、まずヘッド形状が落ち着いていなければなりません。その点、この『W-201』は、かなり以前から契約プロによるテストを繰り返していますので、形状面では問題ありません。そして体積が303cm3(9度)、308cm3(10度)と今では小ぶりなヘッドと言えますが、いかにも球がつかまる感じが出ています。そして、9度はストレートフェース、10度はわずかにフックフェースとなっているのも球のつかまりを考えてのことで良いことです。また、重心距離を9度で35.6mm、10度で33.7mmとロフトによって変化させており、これも10度モデルの方が球がつかまるように設計されています。これは、数値的にも証明されており、表の中の「ネック軸回りの慣性モーメント」の数値を見ると、9度が5800gcm2、10度が5334gcm2と10度の方が小さくなっていますので、ヘッドが返りやすく球をつかまえやすくなっていることがわかります。
 このように、ロフト別にヘッドの操作性まで考慮しているモデルは非常に少ないのが実状で、このクラブがていねいに設計されていることがわかります。そして、ヘッドの大きさの割には重心深度が深く、インパクトロフトも増えて球が上がりやすくなっていますので、やさしく感じることでしょう。弾道イメージは、ハイドローです。
3. 先側がしっかりしたブレにくいシャフト
 ヘッドスピードが45m/s前後のプレーヤーにとって、45インチのクラブ長さで63g前後のシャフト重さは的確でしょう。シャフトの先端外径(チップ径)が9.0mmのファットシャフトですので、先側が硬くしっかりしていて、トルクが小さく感じられます。したがって、インパクト付近でのヘッドの動きがしっかりしており、多少ミスヒットしても手に来る感じが少なくなっていると思います。
 ただ、その分手元が軟らかい手元調子になっていますので、ダウンスイングで手が暴れるタイプの激しいスイングの方にはタイミングが取りにくいかも知れません。
4. コントロールしやすいフェアウエイウッド
 この『W-201』は、フェアウェイウッドも打ちやすくできています。形状的にはオーソドックスで安心感がありますし、フックフェースになっていないのが上級者にとってうれしいことです。そして、ドライバー同様に重心が高めの設定ですので、適度なバックスピンもかかりやすく、かえって弾道が安定しますし、グリーンにも止めやすくなっています。フェアウェイウッドやユーティリティーで低重心にしすぎますと、うまく当たればランが多く出て距離も出ますが、グリーンに止まらなくなってしまうのでスコアメイクに役に立つかは疑問なのです。また、ソール面はゆるやかなラウンドソールになっていますので、抜けも良さそうです。
5. 購入する際の注意点
 『W-201』ドライバーとフェアウエイウッドの特徴を説明してきましたが、購入を考えておられる方のためにちょっとした注意点を書いてみます。

1)ドライバーはロフトを1度少なくしても良さそう
 ヘッドの操作性も良く、重心深度も深くなっていますので、自分のイメージよりも球がつかまり、高く上がる可能性があります。いつもは10度を使っているのであれば、1度少ない9度も試打することをおすすめします。

2)#3ウッドの14度は難易度が高そう
 #3のロフトは14度設定です。これはツアープロが打ってちょうど良いロフト角ですので、ヘッドスピードが48m/sくらいまでの方ではフェアウェイから球が上がらないと思います。ティショット用としては良いのですが、フェアウェイ用としては非常に難しいです。しかし、逆に一般上級者には#4と#7と言う選択肢もあり、このセッティングにすればかえって打ちやすいのではないでしょうか。
6. 個人的なリクエスト
 このように『W-201』のウッドを見てきたわけですが、私なりの強いリクエストがあります。

1)上級者モデルはシャフトを8.5mmチップ径のものにして欲しい
 ゴルファーはわがままですから、ヘッドが気に入れば標準装備のV23シャフトと違うシャフトを付けてみたくなるものです。その時に、現在の9.0mmチップのV23が付いていると厄介なのです。上級者はリシャフトも考えてクラブを選びますので、ぜひ次の「スリクソン」ウッドでは8.5mmチップ径のシャフトを付けて欲しいと思います。実際、ツアープロの大多数は8.5mmチップのシャフトを使用しています。

2)ヘッドがちょっと小さい
 昨年の発売でしたら303cm3でも良かったですが、今春の発売であれば少なくとも330cm3くらいにはして欲しかったです。普通のシングルハンディキャッパーでは303cm3では少々難しく感じます。もっとヘッドが大きければ、もっとたくさんの人が使えるのにと残念です。340~350cm3の次期モデルに期待しています。
『スリクソンW-201』実測値
 
  W#1 9度 S W#1 10度 SR W#3 14度 S W#5 18度 S
クラブ長さ(inch) 45.0 45.0 43.0 42.0
クラブ重さ(g) 314.1 311.2 327.8 333.4
スイングウエイト D1.6 D0.2 D1.7 D1.6
クラブ慣性モーメント(gcm2) 291万 287万 285万 282万
         
ヘッド重さ(g) 192.8 193.3 203.8 217.8
ヘッド体積(ml) 303 308 159 141
リアルロフト角(deg) 9.0 11.3 13.0 17.2
ライ角(deg) 57.5 56.5 57.0 58.0
フェース角(deg) スライス0.5 フック0.8 スライス0.5 スライス0.5
フェースプログレッション(mm) 16.4 18.2 16.2 18.3
         
重心距離(mm) 35.6 33.7 32.6 34.0
重心深度(mm) 35.3 35.6 30.5 31.2
重心角(deg) 24.0 24.8 20.7 19.7
フェース高さ(mm) 49.7 49.8 33.3 31.8
スウィートスポット高さ(mm) 30.9 31.9 24.1 26.2
有効打点距離(mm) 18.8 17.9 9.2 5.6
ネック軸回りモーメント(gcm2) 5800 5334 4661 4579
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 3077 3079 2753 2531
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 1862 1860 1283 1267
※フェース角は、計測方法がいくつかあり、同じヘッドでも異なる数値が出ることがあります。ダンロップの計測方法では、フック側に強めに値が出ます。
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。