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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.11 『スリクソン』クラブを検証する
~その2 I-201アイアン編~
 
 前回はスリクソンのウッドを検証しましたが、今回は本格的プロモデルアイアンの『I-201』をズバリ、斬ってみたいと思います。『I-201』には「V23カーボンシャフト」と「プレシジョンライフル」のスチールシャフトが標準装備されています。しかし、この『I-201』はかなりの上級者向けモデルとなっていますので、ニーズはスチールシャフトが中心となるはずです。従って今回は、#5でスチールシャフトの「ライフル6.0」、「ライフル6.5」を試打・計測して、その中身をじっくり検証してみました。
(いつものように実測データを載せておきます)

1. パワーに見合った重量のクラブ
 どのようなプレーヤーに適しているかを判断するひとつにクラブ重量があります。アイアンの場合は、クラブ長さにドライバーほど大きな違いがありませんので、このクラブ重量で、ある程度判断がつきます。「ライフルシャフト」の場合、クラブ重量が426~431gもありますので、やはりドライバーで、飛距離が260ヤード以上出るプレーヤー向きということになるでしょう。つまりヘッド速度でいえば少なくとも47m/s以上の方が対象となります。最近はプロモデルといえども軽いシャフトを装着しているものが多いですが、このシャフト装着モデルははっきりと対象ゴルファーを絞っているクラブといえます。そして、この方がわかりやすいと思います。
2. 操作性の良いヘッド
 ヘッドが小ぶりなこの『I-201』を選ぼうとしている方は、なかなかの腕前で、状況に応じた打ち方をかなり習得されている方だと思います。つまり、必要に応じてダウンブローに打ったり、ラフからではスライスにヘッドを抜いたりして打たれているはずです。その際、重要な要因は重心距離とネック軸回りの慣性モーメントにあります。ヘッドが小ぶりで重心距離が短くなれば、おのずとネック軸回りの慣性モーメントが小さくなり、ヘッドの操作性が良くなります。
 『I-201』は、重心距離が31.9mmと短く、ネック軸回りの慣性モーメントも4553gcm2と小さくなっていますので、インテンショナルに打ち方を変えやすくなっています。つまり、ドロー、フェードの打ち分けがしやすいヘッドといえます。また、小ぶりなヘッドなため、ラフでの抵抗が小さく、ヘッドが抜けやすくなっています。
3. レベルブローを要求される重心の低いヘッド
 通常、プロモデルは重心が高いと思われていますが、最近では設計技術も向上し、十分に低重心なものが作られるようになりました。この『I-201』もスウィートスポット高さが20.5mmとアベレージゴルファー向けヘッドと変わらない低重心になっています。したがって、ライの悪いところから薄めにヒットしても飛距離があまり落ちずに済むでしょう。むしろ、強いダウンブローに打つ必要がなく、深いターフを取らないレベルブローが求められるヘッドといえるでしょう。その証拠にソール角度(バンス角)も強くなく、#5で0.0度になっています。
4. 球を上げやすいストレートネックと抜けの良いソール
 この『I-201』は、昨年から流行しているストレートネック形状を取り入れていますので、球が上がりやすくなっていますし、左に引っかかりにくくなっています。また、ストレートネックですので、アドレスで球を左に置いて構えることができる人に向いています。また、ソールには適度な丸みが付けられていますので、多少ダフっても抜けは良くなっています。
5. ロフト角、ライ角を調整しやすい軟鉄鍛造ヘッド
『I-201』を設計された方は、上級者にはロフト角やライ角を調整できることが、どれほど重要であるか良くわかっておられると思います。特にアイアンのライ角については、方向性を決める重要な要素ですので、軟鉄でできているアイアンはありがたいものです。
6. 購入する際の注意点
 以上、『I-201』アイアンの特徴を説明してきましたが、購入を考えておられる方のためにちょっとした注意点を書いてみます。
 ヘッドがとても小さいので、打点がバラつかない、かなりの上級者向けモデルであることを念頭に置いてください。シルエットの美しさに惚れて、無理に使うのはどうかと思います。またストレートネックにより弾道が高くなりますので、もともと球筋が高い方はイメージが違うと感じるかもしれません。
7. 個人的なリクエスト
 このように『I-201』のアイアンを見てきましたが、私なりの強いリクエストがあります。上述しましたように『I-201』のヘッドはかなり小さく、打点位置のバラつかない上級者向けです。これに加えて、もう少し大きなヘッドのタイプを投入すれば、さらに広く中~上級者にも対応できると思います。ニューモデルの登場を期待したいと思います。
『スリクソンI-201』実測値
 
  #5 ライフル 6.0
クラブ長さ(inch) 37.5
クラブ重さ(g) 426.1
スイングウエイト D1.2
クラブ慣性モーメント(gcm2) 274万
   
ヘッド重さ(g) 255.9
リアルロフト角(deg) 27.0
ライ角(deg) 60.0
フェースプログレッション(mm) 4.3
   
重心距離(mm) 32.2
重心深度(mm) 3.3
重心角(deg) 11.4
スウィートスポット高さ(mm) 20.3
ネック軸回りモーメント(gcm2) 4524
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 2266
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 597
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。