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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.13 『スリクソンウェッジ』を検証する
 
 上級者を対象にした『スリクソン』ブランドのクラブは、今春、『W-201ウッド』と『I-201アイアン』が揃ってデビューしました。そしてこの秋は新たに、こだわりの『スリクソンウェッジ』として、『WG-202』と『WG-203』というAWとSWが加わりました。上級者やプロを対象にしているモデルです。さて、その完成度はどうでしょうか?
さっそく検証してみることにしました。

1. ティアドロップタイプの『WG-202』
 『クリーブランド588』の流れを汲んだ最近のティアドロップタイプウェッジは、すでに多くのメーカーによって、それぞれの個性がプラスされながら開発されています。元はと言えば、こうしたウェッジは、1930~40年代のウイルソンによって原型が作られており、1950年代には優れたものが輩出されています。
 今回の『WG-202』は、このティアドロップタイプのヘッド形状で、フェースプログレッションを8~9mmと大きくしたものです。フェースプログレッションが大きいと、球をスプーンですくうように拾いやすく、深いラフからやバンカーからでも球を打ち出しやすくなります。
 また、この『WG-202』のソール角(バンス角)は標準的な設定になっています。そして、トゥ側のフェース高さが高く面積が広くなっていますので、トゥ寄りで打ちやすいイメージがあり、フワっと球を上げやすいイメージも出てきます。
私は、個人的にはこのタイプが好きです。バンカーからも出しやすいと思います。また、軟鉄の鍛造製法で作られており、表面にはクロムメッキが施されています。
2. フェース面積の大きなタイプ『WG-203』
 一方、『WG-202』に比べてグースネックに見える『WG-203』は、ヒール側のフェース高さが高いために、トップラインがリーディングエッジと平行に近くなっており、これらがボールを包み込むイメージを作っています。また、ヒール側のフェース高さが高いために、スウィートスポットはよりヒール側に位置し、少しヒール側に包み込んで打つことを想定した作りとなっています。
 ソール角(バンス角)は意図的に少なくされており、明らかにプレーヤーに対して技術を要求しています。通常バンカー用SWではソール角は12~13度必要ですが、この『203』では9度しかありません。つまりこれは、バンカーではフェースを開いて打ちなさい、と言っているわけです。
 また、『203』を選ぶメリットとしてもうひとつ、グリーン周りのアプローチショットでもSWを使う人向きであるということがあげられます。理由は少なめのソール角にあります。フェアウェイからのショットでも、ソールが跳ねにくくなるわけです。したがって、通常のアプローチではあまりフェースを開かず、バンカーでは思いきって開くことのできる、テクニシャン向きなウェッジということになります。そのことは小さく設定されたスイングウェイトからも明らかで、リストを使ったショットをしやすくしてくれています。
 『203』の製法は、ソフトステンレスを使った鋳造製法です。「なんだ、鋳造か」と思われるかもしれませんが、なんと世界中のツアープロが使っているウェッジは圧倒的に鋳造品が多いのです。極端に言えば、鍛造品を好んで使っているのは日本人くらいなのです。
3. 松尾好員の辛口コメント
 同時に発売されたこの『WG-202』と『WG-203』ですが、なぜ軟鉄鍛造でクロムメッキしたものとステンレス鋳造品になったのでしょうか? プロが使うものと同じものを販売してくれるのならば、せめて両モデルとも軟鉄製(鍛造、鋳造は問いません)で、メッキ無しで出して欲しかったものです。もちろん、メッキの有る無しはバックスピンには関係ありませんが、ユーザーの気持ちを汲んで、使ってみたくなるようなものにして欲しかったと思います。
 また、これは好みもありますが、ダンロップさんなら、フォルムの完成度はもっともっと高められたはずですよ(ちょっと厳しい要求でしょうか(笑)?)。
『スリクソンウェッジ』実測データ
 
  WG-202
AW
WG-202
SW
WG-203
AW
WG-203
SW
クラブ長さ(inch) 35.0 34.5 35.0 34.5
クラブ重さ(g) 469.1 482.6 465.1 473.3
スイングウエイト D3.5 D6.7 D1.2 D1.4
クラブ慣性モーメント(gcm2) 272万 277万 268万 267万
         
ヘッド重さ(g) 295.4 312.7 293.8 302.7
リアルロフト(deg) 52.3 58.2 52.2 58.3
ライ角(deg) 62.5 63.3 62.8 63.0
フェースプログレッション(mm) 8.3 9.0 3.8 4.1
ソール角(バンス角)(deg) 7.8 13.7 5.7 9.3
         
重心距離(mm) 33.5 33.6 30.3 29.0
重心深度(mm) -1.2 -0.8 0.0 -1.9
重心角(deg) 15.5 17.0 21.3 24.5
スウィートスポット高さ(mm) 19.7 19.4 19.4 18.3
         
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 3289 3565 3115 3254
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 995 1066 1027 1124
ネック軸回りモーメント(gcm2) 6303 6737 5812 6012
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。