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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.18 『スリクソンW-302』を検証する
 
 ダンロップさんのゴルフ部門は、住友ゴム工業から分社して、SRIスポーツに社名を変更し、新たな道を歩もうとしています。そして、その最初に登場することになったのが、「スリクソン(SRIXON)」ブランドの新製品です。「スリクソン」といえば世界統一ブランドで、世界のプロゴルファーも含めた競技指向のゴルファー達が使う道具です。
 今回の新製品も定石通りヘッドは大きくなっていますが、果たしてその性能はどのようなものでしょうか? まずはドライバーとフェアウェイウッドを併せて、ウッドの『W-302』をじっくり検証してみることにしました(実測データは別表)。

■『スリクソンW-302』ドライバーについて
1. 大きく見える形状
 前モデルの『W-201』はヘッド体積が305cm3くらいのものでしたので、380cm3の体積を持つ今回の『W-302』は、全モデルと比較すると、驚くほど大きくなりました。全体のヘッド形状は、ダンロップさんらしい輪郭が丸いもので、ヒール側のふくらみも大きくなっています。
 一般に最近ではヘッド体積が380cm3クラスのものが多く、フェース高さが55mmを超える超ディープフェースのものをよく見かけます。しかし、今回の『W-302』は、敢えてフェース高さを52mmくらいに抑えたシャローフェース設計にしており、投影面積を大きくして打ちやすそうな安心感を与えています。
2. スイートスポット高さが低い
 ヘッドをシャローフェース設計にした結果、ソール面からのスイートスポット高さは33mm前後とかなり低くなっています。これは、低めのティアップの方がフェースの芯に当たりやすいことを意味していますので、はやりの超ディープフェースに対応する高いティアップは必要ありません。
 私は、このスイートスポット高さの低いことを大いに評価したいと思います。理由は、高いティアップでドライバーを打っていますと、知らず知らずに下からあおる打ち方になってしまい、スイングに悪影響をもたらしてしまうからです。以前のように、通常のティアップの高さでドライバーを打てる方が、フェアウェイウッドやアイアンへのつながりも、きっと良くなると思っています。
3. ヘッドの重心距離が長い
 ヘッドの形状が『ゼクシオ』のようにインセットホーゼルになっていないのにもかかわらず、実測重心距離が38mm前後とありますので、敢えて重心距離を伸ばした設計であることが伺えます。
 一方、ヘッドの返しやすさを判断するネック軸回りの慣性モーメントを見ますと、数値が6000gcm2を切っていますので、ごく平均的に仕上がっており、球のつかまりについては心配ないでしょう。
 では、これらのことが何を意味するのかですが、重心距離が長いので、フェース面の打点位置がややトゥ寄りのプレーヤーの方が向いており、必然的にドローヒッターに向いているクラブであると言えそうです。
4. 適度な重みで振りやすい
 次に大事なことは、対象ゴルファーにマッチした振りやすさにクラブが仕上がっているかどうかです。それは、単純にクラブが軽ければ良いということでは決してありません。 
 私は「スリクソン」の中心的ターゲットゴルファーは、ヘッド速度が45~48m/sくらいではないかと見ています。そうしますと、振りやすさの指標となるクラブ全体の慣性モーメントが290万~295万gcm2の範囲にあると、スイングスピードとマッチしやすくなるのです。
 実際、『W-302』のデータを見ますと、Sシャフトで290万gcm2というクラブ慣性モーメントに仕上がっており、ヘッド速度が45m/sくらいの方にぴったりです。

■『W-302』フェアウェイウッドについて
1. オーソドックスなつくりのフェアウェイウッド
 『W-302』はフェアウェイウッドもドライバーと同じ雰囲気で、全体の輪郭は丸く、体積は標準的でオーソドックスなつくりとなっています。そして、フェース高さも適度な高さですので、ティショットでも安心して使用できます。スイートスポット高さもやや低めですので、フェアウェイからも打ちやすいでしょう。
2. スクエアフェースで構えやすくなった
 従来からダンロップさんのフェアウェイウッドは、概してフックフェースなものが多いのですが、今回の『W-302』は、スクエアフェースにきちんと仕上がっています。これならば上級者の方も安心して構えることができますし、球のつまかり過ぎも抑えられるでしょう。
3. セット組みが豊富
 『W-302』は、フェアウェイウッドのロフト設定が2度間隔で5番手ありますので、ヘッド速度や求める距離に応じて様々な組み合わせが可能になっています。私は3番ウッドで230ヤード、5番ウッドで210ヤード、7番ウッドで200ヤードくらいの飛距離でした。
 

■松尾好員の辛口トーク
1. 投影面積が大き過ぎる
 『W-302』は、競技指向のベターゴルファーに対するドライバーとしては、少し投影面積が大き過ぎるような気がします。構えた感じにもう少し繊細さがあれば、なお良いと思います。
2. 構えたときにアップライトに見え過ぎる
 『W-302』のドライバーヘッドは、クラウン部におけるヒール側の高さが低いので、構えると実際のライ角度よりもかなりアップライトに見えてしまい、球がつかまり過ぎるイメージが出ています。もう少し自然に見える方が良いと思うのですが。
3. シャフトについて
 星野英正プロが使用している『W-302』ドライバーですが、星野プロは雑誌で自分のシャフトはグラファイトデザイン社のものと言っているので、星野プロ仕様も同時に販売しても良かったと思います。また、フェアウェイウッドのシャフトがドライバーに比べて硬過ぎるような気がします。やさしく打ちたいのに、シャフトが硬いのでハードにスイングしなければならないイメージになっているような気がします。

次回は『I-302』アイアンについて検証します。

『スリクソンW-302』実測値
 
  W#1 8.5度 X W#1 9.5度 S W#1 10.5度 SR W#3 S W#5 S W#7 SR
クラブ長さ(inch) 45.0 45.0 45.0 43.0 42.0 41.5
クラブ重さ(g) 319.5 315.1 310.0 328.5 334.9 332.5
スイングウエイト D2.5 D1.5 D0.7 D1.8 D1.8 D1.0
クラブ慣性モーメント(gcm2) 293万 290万 289万 286万 283万 279万
             
ヘッド重さ(g) 191.6 192.2 191.2 206.5 216.0 219.1
ヘッド体積(ml) 383 381 384 164 143 132
ライ角(deg) 57.2 57.0 57.0 57.8 58.4 58.7
フェース角(deg) 0.0 フック 0.5 フック 1.0 0.0 0.0 0.0
             
重心距離(mm) 38.6 38.2 37.9 32.5 31.7 31.5
重心深度(mm) 33.9 33.5 34.8 26.8 26.5 26.4
重心角(deg) 20.5 20.5 20.3 18.0 16.5 16.0
フェース高さ(mm) 52.4 51.7 52.3 34.3 32.5 31.4
スウィートスポット高さ(mm) 32.7 32.2 32.4 23.0 22.6 22.3
有効打点距離(mm) 19.7 19.5 18.9 11.3 9.9 9.1
             
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 3,406 3,390 3,460 2,348 2,156 1,981
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 2,115 2,113 2,161 1,153 1,070 1,020
ネック軸回りモーメント(gcm2) 5,852 5,957 5,920 4,021 3,614 3,485
※フェース角は、計測方法がいくつかあり、同じヘッドでも異なる数値が出ることがあります。ダンロップの計測方法では、フック側に強めに値が出ます。
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。