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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.19 『スリクソン I-302』を検証する
 
 ダンロップさんのプロモデルアイアンは、かつての「DPシリーズ」、「ニューブリード」、そして「スリクソン」へと伝統が受け継がれています。「スリクソン」ブランドとしては2作目となる今回の『I-302』は、評判がかなり良いようですが、果 たしてその性能はどのようなものでしょうか、じっくり検証してみることにしました(実測データは別表)。

1. 明らかに構えやすいヘッド形状
 先代の『I-201』は、「これはプロ用で難しそうだ」という雰囲気をプンプンさせていましたが、今回の『I-302』は違います。とてもオーソドックスで構えやすく、構えた瞬間に「これはいける」と感じるアイアンです。全体の形状は、かつての「DPシリーズ」に通 じるものがあり、ラインが出せるアイアンに仕上がっています。
 
2. 打感が良くなった
 『I-201』は、フェースの肉厚が薄くやや軽い打感でしたが、今回の『I-302』はしっかりとしたソリッドな打感で、芯で打った時の感触が非常に良くなっています。
 
3. バンス角が大きくなって、ダウンブローに適するようになった
 『I-201』はソールのバンス角が小さくてスクープ気味でしたので、プロや上級者向けのヘッドの割りには払い打ちに適していました。しかし、今回の『I-302』は、しっかりバンス角が付いて、はっきりとダウンブロー打ちに適するようになっています。使用プロがみな「ソールの抜けが良い」と証言しているのもうなずけます。
 
4. スイートスポットが高めで良い
 『I-201』は、低重心化を強く意識して設計されていましたが、今回の『I-302』は、スイ-トスポット高さが高くなり、ダウンブローにさえ打てれば、フェアウェイからでもティーアップしても、強い球を打てるようになりました。
 
5. 重心距離が長くなって良くなった
 一般に重心距離が長くなりますと、ヘッドの返りが悪くなって球のつかまりが悪いと考えがちですが、今回の『I-302』はむしろ長くなってちょうど良くなったと言えます。理由は、前モデルの『I-201』は重心距離が短か過ぎて、スイートスポットがかなりヒール側へオフセットしていましたので、ヒール打ちの人にしか良い感触が得られなかったからです。
 
6. 良いウェッジがセッティングされている
 一般にセットものとして作られたウェッジ(AWやSW)は、他社製品も含めて今まで良いものがほとんどありませんでした。今回は無理を言ってウェッジもお借りして検証したのですが、この『I?302』のウェッジはなかなかの優れものでした。はっきり言って、単品販売されている他のウェッジよりも出来が良く、特にSWは優れものだと思います。ヘッド形状・ソール形状・ソールのバンス角がほど良く、打ってみて「バンカーショットが上手くなったのかな?」と感じたくらいでした。

■松尾好員の辛口トーク
1. ソールバンスが強い
 今回の『I-302』は明らかにバンス角が強く設計されています。別表のように5番アイアンで3度、7番で5度の強いバンス角がついています。このような強めのバンス角は米国のコースには向いていますが、フェアウェイが硬いわが国ではソールが跳ねて使いにくいかもしれません。
 
2. NS950では軽過ぎる
 「ダイナミックゴールド」と「NS950」の2種類のスチールシャフトが準備されているのですが、対象ユーザー層を考えますと、「NS950」ではクラブが軽過ぎないでしょうか。「NS105」の方がクラブ重量 として相性が良いと思います。

次回はこのコラムで初めてボールを検証します。
春に発売された『UR-X』ボールです。

『スリクソン I-302』実測値
 
  #5
(NS950S)
#7
(NS950 S)
#5
(DG S200)
#7
(DG S200)
AW
(DG S200)
SW
(DG S200)
クラブ長さ(inch) 37.75 36.75 37.6 36.6 35.0 34.9
クラブ重さ(g) 401.7 415.0 426.8 442.9 468.2 468.4
クラブ慣性モーメント(gcm2) 270万 269万 275万 274万 272万 272万
             
ヘッド重さ(g) 254.5 268.1 ―― ―― ―― ――
フェースプログレッション(mm) 4.4 4.5 ―― ―― 5.8 7.2
バンス角(deg) 3.0 5.3 ―― ―― 9.5 12.0
             
重心距離(mm) 34.4 34.2 ―― ―― ―― ――
重心深度(mm) 2.2 1.7 ―― ―― ―― ――
重心角(deg) 10.2 12.5 ―― ―― ―― ――
スウィートスポット高さ(mm) 21.6 20.8 ―― ―― ―― ――
             
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 2,288 2,443 ―― ―― ―― ――
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 606 639 ―― ―― ―― ――
ネック軸回りモーメント(gcm2) 4,764 5,285 ―― ―― ―― ――
※フェース角は、計測方法がいくつかあり、同じヘッドでも異なる数値が出ることがあります。ダンロップの計測方法では、フック側に強めに値が出ます。
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。