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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.24 『スリクソンW-404』を検証する
 
 スリクソンは世界統一ブランドですので、このブランドが立ち上がったときから、世界のプロゴルファーを含めた競技指向のゴルファーたちに支持されています。これまでに数々の優れたクラブを世に送り出して来ましたが、2004年秋に発売されたニューモデルの『スリクソンW-404』は、加瀬秀樹プロの復活を支えたドライバーとして、また星野英正プロや中嶋常幸プロも愛用しているクラブということで、特に注目を集めています。
 今回の『W-404』は、前作の『W-302』よりかなりヘッドが大きくなっています。それも含め、果たしてその性能はどのようなものでしょうか? ドライバーとフェアウェイウッドも併せて、じっくりと検証してみることにしました。(実測データは別表)

■『スリクソンW-404』ドライバーについて
1. 力強く、球がつかまりやすそうに感じられる形状
 スリクソンとして初めて世に出た『W-201』ドライバーのヘッド体積は、305cm3でした。その後の『W-302』が380cm3。そして今回の『W-404』は405cm3と、着実に大きくなっています。今や、ツアープロも400cm3時代を迎えています。
 全体のヘッド形状は、SRIスポーツさんの特徴ともいえる輪郭が丸い形状で、ヒール側のふくらみが大きく、そこに力強さを感じます。
 フェース形状は、405cm3という体積になったことから、ヘッド厚が55mmを超えるディープフェースになりました。トゥ側の高さが高いため、構えると実際のライ角度よりもアップライトに見えます。球がつかまりやすそうに感じられ、視覚的にスイングを楽にさせてくれます。
 
2. ヘッドの操作性を考慮した高度な設計
 今回の『W-404』は、前回の『W-302』よりもヘッド体積が20cm3も大きくなったのですが、重心距離は『W-302』とほとんど変わっていません。これは明らかに意図的に設計されているわけで、ヘッドの操作性を考慮されてのことでしょう。
 ネック軸回りの慣性モーメントは『W-302』よりも少し大きくなっていますが、ただ単にヘッドを大きくしただけではもっと差が大きくなって、操作性を犠牲にしなければならなかったはずです。高度な設計技術により、操作性の良さが達成されていることがうかがえます。
 
3. 低重心率を維持して飛びのスペックに
 ヘッド体積が大きくなり、しかもフェース高さが高いディープフェース形状になりますと、スイートスポットがより高くなり、通常は低重心率も上がってしまいます。しかし、この『W-404』は『W-302』と比べ、低重心率はほぼ同じなのです。よって、ディープフェースになった分だけ有効打点距離が大きくなり、スピンを抑えた強い球が打ちやすくなっています。
 
4. 適度な重みで振りやすい
 クラブとして大事なことは、対象ゴルファーにマッチした重さに仕上がっているかどうかです。クラブは軽ければ良いというわけではありません。
 スリクソンのターゲットゴルファーは、ヘッド速度がかなり速いクラスです。そうしますと、振りやすさの指標となるクラブ全体の慣性モーメントが、290万~294万gcm2におさまってくれると、スイングスピードとマッチしやすくなるのです。実際、データを見ますと、9.5度のSシャフト仕様で291万gcm2のクラブ慣性モーメントに仕上がっていて、ヘッド速度が45~47m/sくらいの方にぴったりです。
 
5. 中間部がしなって加速するシャフト
 『W-302』の標準装着シャフト「SV-301J」よりも、この『W-404』の標準装着シャフト「SV-3001J」は、手元の剛性を上げていながら、中間部を軟らかく設定しています。そのため、硬いシャフトながらも中間部のしなり感を感じられるはずです。
 また、先側(ヘッド寄り)のねじれを抑えていますので、先がしっかりして、より叩ける安心感があります。どちらかと言えば、ダウンスイングであまりタメを作らないスイングの方に向いているでしょう。
 

■『スリクソンW-404』フェアウェイウッドについて
 フェアウェイウッドについては、カタログやマニュアルにおいて、SRIスポーツさんはあまり多くを説明されていないのですが、私はかなり進化したと見ています。
1. シャローフェースになって球を拾いやすくなった
 『W-404』のフェアウェイウッドは、『W-302』よりもシャローフェースになっているため、構えたときに明らかに球を拾いやすく感じます。悪いライからでもうまく打てそうな安心感があります。
 
2. 重心深度が深くなってよりやさしくなった
 『W-404』のヘッド体積は『W-302』とほぼ同じですが、重心深度が3mmほど深くなりました。3mmというのはかなりの変化で、同時にヘッド慣性モーメントも10%ほど大きくなったため、よりミスショットに寛容になり、飛距離にばらつきが出にくくなったと思います。
 
 

■松尾好員の辛口トーク
1. R&AとUSGAの反発係数基準値に適合したモデルもカタログ標準に
 2005年あたりから、メーカー各社ともその対応を開始すると私は見ていますが、反発係数の規制問題があります。スリクソンファンの多くは、高反発ヘッドが規制される2006年の公式戦にチャレンジすると思いますので、いわゆるドライバーの低反発ヴァージョンもそろそろごく普通に販売して欲しいと思います。
 
2. フェアウェイウッドが軽い
 フェアウェイウッドのクラブ重量が、ドライバーに比べて軽過ぎるような気がします。ドライバーと3番ウッドのクラブ重量差が実測で9gしかなく、ドライバーと比べて2インチも短い3番ウッドとしては軽過ぎると思います。軽いと確かに楽には振りやすいのですが、実際コースではフェアウェイウッドのクラブ重量が軽いとトップしやすいので、もう少し重量差を付けたほうが良いと思います。
 

次回は、『スリクソンI-404アイアン』を検証してみます。

SRIXON W-404 実測データ
  #1 8.5
(X)
#1 9.5
(S)
#1 10.5
(SR)
#3
(S)
#5
(S)
#7
(SR)
クラブ長さ(inch) 45.0 45.0 45.0 43.1 42.0 41.5
クラブ重さ(g) 319.4 317.9 311.6 326.5 332.1 334.7
スイングウェイト D2.7 D2.2 D0.8 D2.6 D1.3 D1.3
クラブ慣性モーメント(gcm2) 292万 291万 287万 287万 280万 278万
             
ヘッド重さ(g) 194.8 192.8 194.6 209.4 218.5 219.9
ヘッド体積(ml) 405 403 406 166 149 133
ライ角(deg) 57.0 57.0 57.0 57.0 58.5 59.0
フェース角(deg) 0.0 フック
0.7
フック
0.9
オープン
0.2
オープン
1.0
フック
0.7
             
スウィートスポット距離(mm) 37.3 36.2 35.5 - - -
重心距離(mm) - - - 33.0 31.9 31.0
重心深度(mm) 33.9 33.5 34.1 30.3 29.2 28.9
重心角(deg) 20.8 21.5 21.4 21.2 18.6 18.4
フェース高さ(mm) 55.7 55.2 55.0 32.8 31.7 30.5
スウィートスポット高さ(mm) 34.6 34.6 35.5 24.1 23.6 23.0
有効打点距離(mm) 21.1 20.6 19.5 8.7 8.1 7.5
             
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 3,595 3,409 3,363 2,550 2,398 2,194
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 2,294 2,263 2,199 1,330 1,220 1,149
ネック軸回りモーメント(gcm2) 6,224 5,862 5,688 4,487 4,128 3,776

※フェース角は、計測方法がいくつかあり、同じヘッドでも異なる数値が出ることがあります。ダンロップの計測方法では、フック側に強めに値が出ます。
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。