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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.29 『ハイブリッド アドフォース』を検証する ~アイアン編~
 
 「打ってやさしいクラブ」が代名詞となっている「ハイブリッド」ブランドですが、今回の『アドフォース』で4代目となりました。「ハイブリッド」は常にオーソドックスな設計で、多くのアベレージゴルファーの方に愛用していただいてきたアイアンですが、果たして今回の『アドフォース』の性能はどのようなものでしょうか。じっくり検証してみることにしました。(実測データは別表、前モデルと比較付き)

1. とにかくやさしいアイアン
 『アドフォース』アイアンのヘッドは大きく、構えて安心感があります。特に難しい5番や6番のヘッドが大きいので、上手く打てそうな感じがします。5番のロフト角は25度となっていて、他の超ストロングロフトのアイアンよりも少しロフトが大きいため、球が上がりやすくなっています。もっと飛ばしたいと思われるかも知れませんが、未だ飛距離の安定しないアベレージゴルファーにとっては、やさしく打てるほうを優先すべきです。
 
2. トウ寄りミスヒットに強い
 『アドフォース』アイアンのフェースは長くヘッドも大きいので、それだけでも安心感があります。実際、重心距離も長く、ネック軸回りの慣性モーメントも大きくなっていますので、アベレージゴルファーに多いミスショット、つまりフェースのトウ側に当たるミスヒットに対して強くなっています。球がトウ寄りに当たっても、ヘッドがブレにくくなっています。
 
3. バランスの取れた重心位置設計
 『アドフォース』アイアンでは、ヘッドの慣性モーメントを大きく取りながら、重心深度を深く、しかもスイートスポット高さを21mmと最適化しているため、全体的にレベルの高い設計が施されています。従って、フェアウェイからでも球を拾いやすく、ティアップショットでも当たり負けせずに使えるでしょう。
 
4. 払い打ちに適したソール角度
 アベレージゴルファーにおいては、ダウンブローに上手く打つことはなかなかできるものではありません。前モデルの『CF1』はややバンスソールで、ダウンブローに打つことが求められていました。しかし今回の『アドフォース』では、ソール角(バンス角)が5番や7番アイアンでスクープソールになり、払い打ちをしてもソールが跳ねることはなく、スムースに振り抜けるように作られています。
 
5. シャフトは軟らかくて振りやすい
 『アドフォース』アイアンのシャフトですが、Sは適度なしっかり感があり、Rは軟らかくてしなりを感じるものとなっているため、とても振りやすくなっています。
 

■松尾好員の辛口トーク
1. アイアンがドライバーに比べて少し軽い気がします
 今回はまだアイアンがカーボンシャフト仕様だけということで、それを試打させていただきました。試打をした感じとしましては、パワーの落ちてこられた方にとっては良いと思うのですが、私の知る「ハイブリッド」を支持する30~40才代のゴルファーにとっては、もう少し重くても良いのかなと思いました。アイアンが軽いと楽に振れ過ぎ、かえって手打ちになってしまう危険性があると思いますので。そこで今回のカーボンよりも少し重めの軽量シャフトも用意したら良いなと思いましたところ、4月末から「NSプロ950GH」仕様の出荷が特注でスタートしているそうです。パワーのある方はこちらのシャフトが良いかもしれませんね。
 
2. ヘッドがオーソドックス過ぎる
 これはある程度好みの問題かも知れませんが、SRIスポーツさんの他のモデル、つまり『ゼクシオ』や『プライム』、あるいは『スリクソン』と比べて、今回の『アドフォース』は遜色がなさ過ぎるように思います。『アドフォース』がオーソドックスであることは何ら問題ではなくむしろ良いことなのですが、初・中級者にとっては、もっと打ちやすさを追求した個性的なモデルでも良いのではと思ってしまいます。そうした期待をしてしまうのは私だけかもしれませんが……。
 

アドフォースアイアン実測値
  #5-R #7-R 前モデル
#5-S
クラブ長さ(inch) 38.0 37.0 38.0
クラブ重さ(g) 364.5 375.6 376.7
スイングウエイト C9.0 C9.0 D0.2
       
ヘッド重さ(g) 251.6 266.3 253.1
リアルロフト(deg) 24.5 31.0 25.0
ライ角(deg) 61.0 60.5 60.5
フェースプログレッション(mm) 2.7 3.2 2.2
       
重心距離(mm) 40.9 38.6 39.2
重心深度(mm) 4.6 4.4 5.0
重心角(deg) 12.9 14.5 14.3
       
ヘッド左右慣性モーメント(gcm2) 2,607 2,690 2,806
ヘッド上下慣性モーメント(gcm2) 597 670 637
ネック軸回りモーメント(gcm2) 6,534 6,371 6,410

※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。