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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.30 『Z-UR』と『Z-URS』を検証する

 6月から8月にかけて、男女ともにメジャートーナメントが続きます。米国でも日本と同じく10代の女子選手の活躍が目覚ましく、ゴルフブームが世界的に起きる期待感があります。
 男女の全米オープンを見ましたが、特にドライバーの飛距離に異次元の感を持ちました。これはクラブだけでなく、ボールの飛距離性能が上がっていることが大きな要因だと思います。
 今回は、世界中で使用されている「スリクソン」ブランドのボール、『Z-UR』と『Z-URS』をじっくりとテストする機会があり、詳しくレポートできることになりました。

 試打方法はドライバーと7番アイアン、そしてウエッジのコントロールショットを行い、それらの実測データを取りながら検証しました。比較用として前モデルの『UR-X』のテストも含めました。
 尚、実験のデータは、SRIスポーツ所有の「TRACKMAN(ボール後方からレーダーシステムでボールを追い掛ける装置)」を使い計測しました。

「ドライバーでの飛距離比較」
1. ボール初速においては、距離追求型の『Z-UR』が最も速く、ドライバーでの飛びの期待値が非常に大きいと思います。ボールの初速が速いということは、すなわち、ボールのコンプレッション(硬さ)が高く、反発性能が高いということですので、打感的にはしっかり感があります。
データ的には、この『Z-UR』はヘッドスピード43.9m/sで、ボール初速が66.0m/s、打ち出し角度が14.1度、バックスピンが2560rpmで、飛距離は255ヤードでした。
 
2. 距離性能とソフトフィーリングのバランスを追求したニューボール『Z-URS』は、ボール初速はほとんど『Z-UR』と変わらないのですが、打感は確かに少し軟らかくなっています。ボールの基本性質上、コンプレッションが軟らかくなりますと、ボール初速が落ち、打ち出し角度が上がり、バックスピンが減ることになります。しかし、『Z-URS』はボール初速の落ち方が非常に僅かなものとなっていますので、高いレベルで開発されたことがよくわかります。
データ的に『Z-URS』はヘッドスピード43.9m/sで、ボール初速が65.7m/s、打ち出し角度が14.5度、バックスピンが2500rpmで、飛距離は252ヤードでした。
 
3. 前モデルの『UR-X』を比較用として打ってみましたが、「Z-URシリーズ」のボールと比べますと反発性能が落ち、ボール初速も下がっています。そして、打ち出し角度がやや低く、同時にバックスピン量が多くなっており、やや吹き上がり気味の弾道となっていました。
データ的には『UR-X』はヘッドスピード43.9m/sで、ボール初速が64.3m/s、打ち出し角度が12.5度、バックスピンが 2870rpmで、飛距離は245ヤードでした。
 

「アイアンの飛距離性能」

1. アイアンにおけるボール初速でも、『Z-UR』が最も速く、打感もしっかり感があり、高いパフォーマンスを示しています。弾道も安定感があり、男子プロの使用率が高いのもよくわかります。
データ的には『Z-UR』はボール初速が49.5m/s、打ち出し角度が18.9度、バックスピンが5830rpmで、飛距離は155ヤードでした。
 
2. 『Z-URS』のアイアンでのボール初速は、『Z-UR』と比べた場合、ドライバーの時よりもその差は小さくなっています。そして、ソフトコアが理由なのでしょうか、打ち出し角度がやや高くなっています。打ち出し角度が高くなったので、バックスピン量が減り、その結果、飛距離性能が上がっています。また、同時にソフトなフィーリングが得られます。
データ的には『Z-URS』はボール初速が49.3m/s、打ち出し角度が19.3度、バックスピンが5620rpmで、飛距離は157ヤードでした。
 

「ウエッジでのコントロール、スピン性能」

1. ウエッジでも、『Z-UR』ではやや硬めのしっかりとした打感が得られます。弾道は普通かやや高めで、落ちてから1バウンドくらいで止まります。何球打ってもほぼ飛距離は同じで、高い安定性能があります。
データ的には『Z-UR』はボール初速が31.3m/s、打ち出し角度も31.3度、バックスピンが8730rpmで、飛距離は75ヤードでした。
 
2. 『Z-URS』は『Z-UR』と比べてソフトフィーリングです。弾道は『Z-UR』と同じく普通かやや低めで、同じく1バウンドくらいで止まります。飛距離の安定性などは『Z-UR』と同じです。
データ的には『Z-URS』はボール初速が31.2m/s、打ち出し角度が31.3度、バックスピンが8740rpmで、飛距離は75ヤードでした。
 

構造図 カバー 世界最薄※1ウレタンカバー「0.5mm」カバー厚比較 他社品A:0.80mm 他社品B:1.05mm 他社品C:0.65mm(当社調べ) ミッド 高反発アイオノマーミッド コア PBDS配合高反発EGGコア(Z-UR) PBDS配合ソフトEGGコア(Z-URS) ※PBDSはペンタプロモジフェニルジスフィドの略 ※EGGはEnergy Growing Gradientの略 ディンプル 高弾道330ディンプル ※1当社調べ(2005年5月1日時点)


■松尾好員の辛口トーク
 いつもはクラブに関することですので、いろいろと勝手に辛口トークをさせて頂いていますが、今回はボールのテストですので、その時の感想や自分自身で調べた情報などについてコメントしたいと思います。
1. 『Z-UR』は飛ぶぞ
私のいつものドライバーでの飛距離は、平面で250ヤードくらいです。しかし、今回の試打で、『Z-UR』は、試打中に260ヤードを超えるショットが何発かありました。やはり、高い飛距離性能の噂は本当だったのです。この間の「よみうりオープン」で初優勝した広田悟プロも「ドライバーの距離が10ヤードくらい伸びたので、『よみうり』を攻めやすくなった」と言っていました。確かにその通りだと思います。ドライバーの飛距離追求ならば『Z-UR』です。
 
2. 『Z-URS』はナイスフィーリング
『Z-UR』はドライバーで飛ぶのですが、『Z-URS』のソフトフィーリングも捨て難いものがあります。ヘッド速度が50m/sを超える男子プロならば、『Z-UR』の硬めの打感がちょうど良さそうですし、飛距離メリットもありそうな気がします。しかし、『Z-URS』のアイアンの飛距離性能や、ウエッジでのソフトフィーリングはなかなかの優れもので、どちらを使用するか、個人的にはとても迷う感じです。
 
3. 他社ボール契約プロも注目しているZ-UR
先月米国に出張していた時に何人かの業界人から質問を受けました。「SRIXONの『Z-UR』とはどんなボールか?」と。その時は「なぜ?」と思いましたが、実はこのボールはUSPGAツアーで話題になっているようです。世界ランクトップクラスのプロが試打をしたり、他の選手が使っているのをとても気にしているとのことです。
また、昨秋でしたが、日本の超有名他社契約プロが、実際に試合で『Z-UR』を使っていたのもこの目で見て知っています。その時は同伴競技者が驚いていました。
 
4. 『Z-URS』の追加により、選手により選択の余地が広まった
私が調べた範囲では、SRIスポーツの契約選手は、日本の男子プロにおいてはまず全員『Z-UR』を使用しています。星野英正プロも好調の川岸良兼プロも『Z-UR』を使用しています。
日本の女子プロにおいては、『Z-UR』と『Z-URS』の使用者はだいたい半々です。
女子プロのほうが、アプローチでソフトフィーリングを好む人が多いようです。ちなみに横峯さくらプロは『Z-UR』を使用し、古閑美保プロは『Z-URS』を使用しています。
また、欧米の選手ではやや『Z-URS』の使用が多いようです。好調のティム・ペトロビック選手は『Z-URS』を使用し、アレックス・チェイカ選手は『Z-UR』を使用しています。ちなみにカリー・ウェブ選手は『Z-URS』を使用しています。
 
5. 実際にコースで試してみよう
SRIスポーツ製のボールとしては「ゼクシオ」や「ハイブリッド」のボールに目が行きがちですが、ぜひ一度「スリクソン」の『Z-UR』や『Z-URS』のボールを試してみることをお勧めします。そして、その世界レベルの性能を確かめて欲しいと思います。
 

『Z-UR』『Z-URS』『UR-X』実測データ
ボール Z-UR Z-URS UR-X Z-UR Z-URS Z-UR Z-URS
使用クラブ 1W 1W 1W 7I 7I PS PS
ヘッドスピード [m/s] 43.9 43.9 43.9 36.6 36.5 30.1 29.9
ボールスピード [m/s] 66.0 65.7 64.3 49.5 49.3 31.3 31.2
打ち出し角 [deg] 14.1 14.5 12.5 18.9 19.3 31.3 31.3
スピン量 [rpm] 2560 2500 2870 5830 5620 8730 8740
キャリー [yds] 239.3 237.8 229.6 148.0 148.4 - -
左右ブレ [yds] 4.3 L 7.4 R 6.8 R 5.7 R 4.8 R - -
トータル飛距離 [yds] 255 252 245 155 157 - -

※PSは75ヤードのコントロールショット

※TRACKMAN(トラックマン)とは
ボール後方に設置されたカメラが、ドップラー効果によりボールを準ミリ波レベルで捉え続け、打ち出されてから落下するまでの弾道を追尾することができる。全弾道計測が行えることで、飛行中の姿勢、状態を把握しやすくなり、弾道設計をより意識したボール設計が可能となる。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。