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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.37 『スリクソン ZR-600』ウッドと『Z-STEEL』フェアウエイウッドを検証する

 最近ではJ.フューリックを初め世界のゴルフシーンでスリクソンブランドを多く目にするようになり、SRIスポーツの契約選手の活躍が伺えます。そして、新製品のZR-600のドライバーですが、星野英正プロ、高橋竜彦プロ、広田悟プロ、加瀬秀樹プロ、宮瀬博文プロなど多くの契約選手が開幕戦から使い始め(最初は鉛でブランドを消されていましたが)、非常に注目を集めていました。しかもW.パースキーはZR-600で開幕戦の勝利や高橋竜彦プロの日本ゴルフツアー優勝を成し遂げたのです。
今回のZR-600は従来のW~表示からブランドも変わり、新生スリクソンを予期されます。そして、前モデルのW505より更に20cm3体積が大きくなって迫力が増しているのですが、果たしてその性能はどのように変わったのでしょうか?
クラブとヘッドをじっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)

■ドライバーについて

1. 球がつかまるヘッド
W201の体積が305cm3、W302が380cm3、W404が405cm3、W505が420cm3と進化し、今回のZR-600は440cm3とSRIXONのドライバーとして最大ヘッドになりました。
全体の形状はスリクソンの伝統的な丸い形状が踏襲され、今回特にヒール側のふくらみが大きくそのヒール側の力強さが強調されています。そして、ややインセットホーゼル設計になっており、体積の割に重心距離を抑えるのに役立っています。
また、フェースプログレッション(フェースの前方への出方)が小さめに抑えられ、ちょうどアイアンのグースネックの様に球のつかまりを良くする効果があります。
そして、実際のライ角はそれほどアップライではないのですが、ヘッドのクラウンのトウ側の高さが高く、構えるとアップライに見えて球がつかまりやすそうに感じられます。
そして、ヘッドの操作性や返りやすさを判断するヘッドのネック軸回りの慣性モーメントが6000gcm2台半ばで体積の割に小さくなっており、操作性が良く球のつかまりも良くなっています。また、ハイバック形状により、アドレス時のヘッドの座りが良く、構えやすくなっているのも良い点です。
 
2. 低重心で強い球が打て、そして飛ぶ!
別表のクラブとヘッドスペックを見て頂くと良く分かりますが、ZR-600とW505とでは、スウィートスポットの高さがほぼ同じになっています。
体積の小さいW505と同じと言うことは、よりディープフェースになったZR-600が特別に低重心に作られていることが分かります。
SRIスポーツの説明の中で「飛距離の追求」が最初に上げられている様に、ZR-600の持ち味は低スピンで飛ばすと言うことです。間違いありません。
 
3. ヘッド慣性モーメント値がアップして、よりミスショットに寛容に
ヘッド体積が大きくなり、ヘッドの慣性モーメント(左右)が約3%向上し、ヘッドの慣性モーメント(上下)が約8%向上し、スウィートスポットから外れたミスショットにも強くなりました。
実感としては、この数字以上に安定感が有り、やさしくなったスリクソンだと思います。そして、ディープフェースの効果で上下に外れた時が特に強く、高めのティーアップで思いきってスイング出来るでしょう。
 
4. W505よりも振りやすくなった
前モデルのW505では、クラブ重量がSシャフト仕様で323グラム、SRシャフト仕様で320グラム有りました。ヘッド速度が46m/s以上ですとちょうど良かったのですが、43~45m/sくらいの方にはちょっと辛い感じもありました。
そう言う理由も有ったのか?今回のZR-600では、クラブ重量が5~6グラム軽くなり、かなり振りやすくなりました。
別表でも分かりますが、ZR-600では、Sシャフトでクラブ重量が317グラム、クラブ慣性モーメントが288万gcm2ですので、ヘッド速度が43~44m/sくらいの方が振りやすくなっています。
また、RのLight軽量シャフト仕様では、クラブ重量が307グラム、クラブ慣性モーメントが285万gcm2ですので、ヘッド速度が40~41m/sくらいの方が振りやすくなっており、スリクソンユーザーの幅が広がりそうです。
 
5. 軟らかくなって振りやすくなったシャフト
W505のシャフトSV-3003Jはシャフト全長域でねじれ感が抑えられ、結構しっかりしていました。しかし、今回クラブ重量の低下と共に、SV-3010Jシャフトの硬さも軟らかくなり、少しヘッド速度の遅いゴルファーでもシャフトのしなりを感じられる様になりました。更に軽量のLightシャフトも標準装備され、ZR-600は全体として、やさしいドライバーのイメージに変化しました。
 

■松尾好員の辛口トーク
1. 10.5度ロフトが打ちやすい
ZR-600全体を見て行きますと、W505よりもクラブ重量を軽く、シャフトを軟らかくして振りやすくしようと言う意図を感じられます。この結果、従来スリクソンをためらった方でも充分使えるクラブになったと思います。
そして、今回はヘッドが低重心設定ですので、バックスピンが少なめの強い球が出て、それが飛距離アップにつながっています。
しかし、注意しなければならないのはロフト選びです。基本的には従来と同じロフトを選択すれば良いと思いますが、低重心設計と低ロフトが組み合わされますと充分が打ち出し角度が得られず、球がドロップ気味になる可能性があります。
そのような場合、実際試打をされて最適なスペックを選ぶことをおすすめします。
 

  9.5-S 10.5-S 10.5-R
LIGHT
W505
9.5-S
W505
10.5-SR
SRIXON ZR-600ドライバー 実測値
クラブ長さ inch 44.75 44.75 44.75 44.75 44.75
クラブ重さ g 316.5 317.2 306.6 322.8 320.3
スイングウエイト   D1.8 D1.8 D0 D2.5 D1.7
クラブ慣性モーメント gcm2 288万 289万 285万 292万 291万
 
ヘッド重さ g 197.3   197.1 195.1 195.7
ヘッド体積 ml 443   449 423 427
リアルロフト deg 9.7   11.2 10.2 11.5
ライ角 deg 57.0   57.2 56.5 56.8
フェース角 deg 0.0   HOOK
0.5
HOOK
0.5
HOOK
1.0
フェースプログレッション mm 18.3   19.1 18.7 20.1
 
重心距離 mm 38.4   37.9 37.9 37.9
重心深度 mm 33.4   33.6 31.5 32.2
重心角 deg 19.8   19.2 17.7 17.2
フェース高さ mm 58.8   58.7 56.5 57.0
スウィートスポット高さ mm 35.3   35.4 35.3 35.6
有効打点距離 mm 23.5   23.3 21.2 21.4
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 3,848   3,845 3,748 3,867
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,505   2,506 2,319 2,419
ネック軸回りモーメント gcm2 6,447   6,456 6,168 6,144
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。


■Z- STEELフェアウエイウッド+軽量シャフトSV-3005J Lightについて

1. クラブが軽くなってとても振りやすくなった
別表でも分かりますが、シャフトが約8グラム軽くなり、そして、硬さも軟らかくなってとても扱いやすくなりました。これにより、ヘッド速度が43m/s~45m/s前後の方でも振り切れる様になりました。球も上がって、大きな弾道で飛距離も出ます。
 
2. 軽量シャフトを選択する方なら、FW#4の選択がベスト
Z- STEELのFWの場合#3はロフトが14.5度なので、ヘッド速度が43m/s~45m/s前後の方ではフェアウエイからでは球が上がらない可能性があります。従って、打ち出し角度を得やすい#4(ロフト16.5度)を最初のFWとして選択されることをお勧めします。
実際、#4で上手くミートしますと#3よりもキャリーが出る感じがありました。
そして、その場合#4と#7を組み合わせるのが良い選択と言えそうです。
 

  #4
LIGHT-S
#5
LIGHT-R
#3
(標準S)
#5
(標準S)
#7
(標準S)
SRIXON Z-STEEL LIGHT FW実測値
クラブ長さ inch 42.5 42.0 42.9 42.1 41.5
クラブ重さ g 320.7 323.2 328.4 336.5 339.2
スイングウエイト   D0.7 D0.2 D2.0 D2.0 D2.0
クラブ慣性モーメント gcm2 280万 277万 285万 283万 281万
 
ヘッド重さ g     211.8 211.7 219.2
ヘッド体積 ml     175 151 139
リアルロフト deg     14.5 17.8 20.0
ライ角 deg     57.0 58.5 59.0
フェース角 deg     0.0 OPEN
0.5
HOOK
0.2
フェースプログレッション mm     17.2 18.3 19.0
 
重心距離 mm     30.6 29.1 29.4
重心深度 mm     29.3 28.4 27.8
重心角 deg     19.5 18.0 16.8
フェース高さ mm     35.5 33.3 32.4
スウィートスポット高さ mm     25.2 24.5 23.8
有効打点距離 mm     10.3 8.8 8.6
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2     2,516 2,225 2,167
ヘッド上下慣性モーメント gcm2     1,300 1,169 1,102
ネック軸回りモーメント gcm2     4,011 3,477 3,415
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。