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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.39 『スリクソン WR』ドライバーを検証する

 昨年発売された『スリクソンZR-600』のドライバーについては、すでに各メディアでも報道され、特に飛びの性能については高い評価を得ています。今春はその『スリクソン』に新しいブランド『スリクソンWR』が追加され、非常に期待が高まっています。果たしてその性能はどのようなものでしょうか?クラブとヘッドをじっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)

1. やさしく球がつかまるヘッド
『スリクソンWR』は全体に丸い『スリクソン』の形状が踏襲されていますが、投影面積が大きくなったため、アドレス時の安心感がかなり高くなっています。ヘッドの実測体積は『スリクソンZR-600』より大きくなっていますし、中味の設計も多くの点で異なるものとなっています。
まず最初に、ライ角度がアップライの設定になったことです。従来よりもアップライになり、球がつかまりやすくなりました。2つめはフェース角が若干フックフェースになったことです。ストレートフェースの『ZR-600』に比べて、ややフックフェースの設定ですので、これも球のつかまりに効いています。3つめは重心深度です。深度が深いのでインパクトロフトが増えやすく、これも球の上がりやすさを助けています。4つめはフェースプログレッションがかなり小さくなっていることがあげられます。フェースプログレッションとはシャフト軸線よりもフェースがどれだけ前に出ているかを表していますので、その数値が小さいほどアイアンのグースネックのような効果で球がつかまりやすくなります。
これら4つのことから、『スリクソンWR』のヘッド形状やカラーは『ZR-600』を踏襲していますが、中身は明らかに「球をつかまえよう!」と設計されたものと言え、いつも球がつかまらずに右方向の弱い球になっているアベレージゴルファーにとって良きクラブになると思います。
 
2. シャローフェースになってやさしく感じられる
『スリクソンZR-600』はディープフェースで非常に力強さを感じますが、アベレージゴルファーにとっては威圧感を感じる方もいらっしゃると思います。今回の『スリクソンWR』は、フェース高さが低い、いわゆるシャローフェース設計ですので、アドレスしたときにやさしさが感じられ、楽にスイングできるようになり、ナイスショットにつながるはずです。
 
3. ヘッド慣性モーメント値がアップし、よりミスショットに寛容
『スリクソンWR』のヘッド体積は『ZR-600』より大きく、また重心位置は『WR』専用設計となっています。具体的には重心距離が長く、かつ重心深度が深くなっているのでヘッドの慣性モーメント(左右)が大きくなりました。実感としては、この数字以上に安定感があり、かなりやさしくなった『スリクソン』だと思います。
 
4. 『スリクソンZR-600』よりも振りやすくなった
『スリクソンZR-600』ではクラブ重量がSシャフト仕様で実測317gでしたが、今回の『WR』ではSシャフト仕様で実測306gと約10g軽くなりました。振りやすさを表すクラブ慣性モーメントとしては1万gcm2しか小さくなっていませんが、ヘッド速度が42~43m/sくらいのゴルファーがちょうどタイミングよく振りやすくなっています。
 
5. さらに軟らかくなって振りやすくなったシャフト
『ZR-600』の「SV-3010J」シャフトの硬さも従来のものに比べて軟らかめですが、今回の「SV-3011J」シャフトはさらにダウンスイング中のしなりが感じられ、少しヘッド速度の遅いゴルファーでもタイミング良くスイング出来、シャフトのしなりを感じてやさしくスイングできるようになりました。特にRシャフトは軟らかめで、楽にスイングできます。
 

■松尾好員の辛口トーク
1. ちょっと音が軽いかな
今回の『スリクソンWR』のドライバーに関して、辛口コメントはほとんどありません。強いて言うならば従来の『スリクソン』に比べてインパクト音が軽いかな?と感じるぐらいです。しかし、これを補ってあまりあるほど良い点が多いと思います。そしてこの『WR』ドライバーは、「プロモデルを使ってみたいけどちょっと敷居が高いなあ」と思っている上を目指すアベレージゴルファーや、また「プロモデルは価格が高くて手が出せない」と思っているヤングアベレージゴルファーにとって、とても良いクラブだと思います。
 

  9.5-S 10.5-R ZR-600
9.5-S
ZR-600
10.5-R LT
SRIXON WR 実測データ
クラブ長さ inch 44.75 44.75 44.8 44.8
クラブ重さ g 305.7 301.8 316.5 306.6
スイングウエイト   D1.7 D1.0 D1.2 C9.7
クラブ慣性モーメント gcm2 287万 286万 288万 285万
 
ヘッド重さ g 196.3 193.0 197.3 197.1
ヘッド体積 ml 454 454 443 449
リアルロフト deg 10.6 11.8 9.7 11.2
ライ角 deg 58.5 58.0 57.0 57.2
フェース角 deg HOOK 0.5 HOOK 1.0 0.0 HOOK 0.5
フェースプログレッション mm 17.8 17.8 18.3 19.1
 
重心距離 mm 40.0 39.6 38.4 38.7
重心深度 mm 36.0 35.6 33.4 33.6
重心角 deg 21.9 21.8 19.8 19.2
フェース高さ mm 53.4 53.7 58.8 58.7
スウィートスポット高さ mm 33.8 34.5 35.3 35.4
有効打点距離 mm 19.6 19.2 23.5 23.3
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,115 4,057 3,848 3,845
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,413 2,362 2,505 2,506
ネック軸回りモーメント gcm2 7,092 6,960 6,447 6,456
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。