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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.40 『スリクソン WR』アイアンを検証する

『スリクソン』は本格派プロモデルとして開発され、契約プロや上級者の方々の大きな支持を得ています。昨年秋に発売された『スリクソンZR-600』の評判も高く、多くの上級者が愛用しています。今春は『スリクソン』ブランドでの新しいモデル、『スリクソンWR』が発売され、比較的安価な価格設定でもあるため、ヤングゴルファーにとても好感が持たれそうです。しかし、果たしてその性能はどのようなものでしょうか、じっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)

1. 『ZR-600』よりも少しヘッドが大きくなってやさしくなった
今回の『スリクソンWR』は『ZR-600』よりヘッドが大きくやさしくなって、アベレージゴルファーの方々が楽に打てるモデルです。また、実際にも『ZR-600』よりも慣性モーメント(左右方向)が4%大きくなっています。
 
2. 少しグース感のあるネックとアップライなライ角で球がつかまる
『スリクソンZR-600』は『スリクソン505』よりもストレートネックで、グース感が弱まりスクエア感があります。今回の『スリクソンWR』は実測のフェースプログレッションの数値の差は極端に大きくありませんが、ネックの形状(ネックの曲り方)の作り方の違いで、若干グースネックに見えて球がつかまるように感じます。
また、ライ角度がアップライな設定ですので、インパクトでフェースが開き気味に当たりやすい方でも球がつかまります。
 
3. 重心距離が長くなり、ややトウ寄り打点に強くなった
『スリクソンZR-600』ではフェースの中央よりもヒール側にスイートスポットが位置され、ややクラブをアウトサイドインに入れてフェード系で打つプロや上級者に向いています。しかし、今回の『スリクソンWR』はスコアラインのほぼ中央(トウ・ヒール方向)にスイートスポットが位置されているので、ややトウ寄りに当たりやすいアベレージゴルファーやドロー系プレーヤーに向いています。また、ネック軸回りの慣性モーメントが大きくなり、確かにトウ寄りヒットに強くなっています。
 
4. 深い重心深度で、よりやさしさもキープ
『スリクソンWR』はプロモデル形状のアイアンの割には重心深度が深く(5番で3.6ミリ)なっています。これは、ヘッドのバックフェース側にハイパワーリングと呼ばれる重量の重い部品が取り付けられてからです。実際の慣性モーメントの数値よりも重心深度の効果でやさしさを感じられるでしょう。
 
5. ステンレス製ヘッドでも軟らかい打感
『スリクソンWR』は軟鉄鍛造製ではなく、ステンレスSUS304の鋳造製ですが、材質的に軟らかめで打感も比較的軟鉄に似ているので、まったく違和感がありません。
 
6. 振りやすい「SV-3011J」シャフト
『スリクソンWR』に装着されている「SV-3011J」シャフトは、Sフレックスで66g、Rフレックスで63gとカーボンシャフトにしてはやや重めの設定ですが、シャフトの中間部が軟らかく設計されているので、シャフトのしなりを感じながら振りやすくなっています。先側と手元側がしっかりしていますので、方向安定性が高くなっています。
また、「NS950」仕様よりもクラブ重量が軽くて振りやすいので、弾道はスチールシャフト仕様よりも高く、ヘッド速度が41~42m/sくらいのゴルファーにちょうど良いでしょう。
 

■松尾好員の辛口トーク
1. リーディングエッジをストレートに
ソール面が丸くかつリーディングエッジが丸いので、余計にグースネックに見えてしまいます。日本ではもう少しストレートリーディングエッジにしたほうが、ネックの下部からリーディングエッジへのつながりがすっきり見えて、よりスクエアに構えやすいと思います。
 

  WR#5
NS950
S
WR#5
SV3011J
S
WR#7
NS950
R
WR#7
SV3011J
R
SRIXON WR アイアン 実測データ
クラブ長さ inch 37.75 38.0 36.75 37.0
クラブ重さ g 396.5 368.8 407.6 379.7
スイングウエイト   D1.0 C9.5 D1.5 C9.7
クラブ慣性モーメント gcm2 270万 266万 268万 263万
 
ヘッド重さ g - 253.8 - 268.9
リアルロフト deg - 26.5 - 32.5
ライ角 deg - 61.8 - 62.3
フェースプログレッション mm - 3.2 - 3.0
ソール角 deg - 2.0 - 1.5
 
重心距離 mm - 37.4 - 36.1
重心深度 mm - 3.6 - 2.9
重心角 deg - 12.0 - 15.0
スウィートスポット高さ mm - 21.0 - 20.9
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 - 2,216 - 2,424
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 - 543 - 594
ネック軸回りモーメント gcm2 - 5,357 - 5,798
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。