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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.49 『スリクソン ZR-700』ドライバーを検証する

 これまで『スリクソン』といえば、プロや上級者のためのブランドというイメージがありました。一般のアマチュアには長い間、憧れのブランドであったわけですが、2007年初めに発売された『スリクソンWR』は、打ちやすさを加味して、多くのアベレージゴルファーに愛用されています。実際に使っている方々から「WRは本当にやさしいね」と言う声をよく聞きます。
 今回検証する『スリクソン ZR-700』は、本来のプロや上級者向けの『スリクソン』シリーズのニューモデルです。前モデルの『スリクソンZR-600』は、飛距離性能がとても高かったドライバーですが、反面、球をコントロールすることにやや難しい点もありました。
 新しい『ZR-700』は、ヘッド体積がさらに大きくなったわけですが、その性能は果たしてどのように変わったのでしょうか?クラブとヘッドをじっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)

1. 弾道が安定して飛ぶ
 『ZR-700』の全体のヘッド形状は、従来の『スリクソン』とは少し異なって、ヘッドの横幅が広くなり、やや3角形型のイメージがあります。横幅が広くなったことで、ヘッドの外観的な力強さが増しています。
 ヘッドの重心位置に関しては、『ZR-600』に比べて重心距離が長く、かつ重心深度も深くなっているので、ヘッドの慣性モーメントも大きくなり、弾道安定性に寄与しています。
 実際にヘッドの慣性モーメント(左右方向)は、『ZR-600』よりも約5%大きくなっています。また、ネック軸回りの慣性モーメントも『ZR-600』に比べて約5%大きくなっているため、ヘッドの返りがゆっくりとなり、特にフェースのややトウ寄りに当たりやすいドロー系上級者にとっては大きなフックはしにくく、弾道が安定するでしょう。
 また、ロフトが10.5度のモデルのほうが9.5度よりも重心距離が短く、ネック軸回りの慣性モーメントも小さく、しかもフックフェースになっているので、明らかに球がつかまる設計になっています。
 
2. 4分割バルジ&ロール設計により、さらに弾道が安定する
 別表のヘッドスペックを見ていただくとよくわかりますが、『ZR-700』と『ZR-600』とでは、スイートスポットの高さがほぼ同じになっており、低重心化が図られています。さらに『ZR-700』では、4分割バルジ&ロール設計が施され、安定した方向性と飛距離が得られます。実際、フック系に打ったときの安定感はかなり増しているので、ドロー系で叩きにいっても安心感があり、平均飛距離も伸びることでしょう。
 
3. スクエアフェースになって、さらに構えやすくなった
 今回の『ZR-700』を構えたときにまず感じるのは、従来の『スリクソン』の中で最もスクエアフェースになっているということです。これまでトップアマの方々から、「『スリクソン』はややフックフェースだ」と言う声をよく聞くことがありましたので、このスクエア感を今後も維持して欲しいと思います。
 
4. 様々なヘッド速度のアスリートゴルファーに適したクラブ重量
 クラブ重量に関しては、「T-65」シャフトを装着したロフト9.5度では、Sフレックス仕様で319gとなっています。クラブ慣性モーメントは290万gcm2ですので、ヘッド速度が45m/sくらいの方がタイミングよく振りやすくなっています。
 10.5度のSRフレックス仕様では、クラブ重量が315g、クラブ慣性モーメントが288万gcm2ですので、ヘッド速度が43m/sくらいの方がタイミングよく振りやすくなっています。このSR仕様は、特にシニアのアスリートゴルファーにとって、そのまま使えるスペックに仕上がっていると思います。
 また「T-55」シャフトの10.5度Rフレックス仕様は、クラブ重量が306gと軽くなっていて、クラブ慣性モーメントが284万gcm2ですので、ヘッド速度が40~41m/sくらいの方がタイミングよく振れるでしょう。
 
5. しなやかで振りやすくなったシャフト
 シャフトに関しては、前モデルの『ZR-600』に装着されていた「SV-3010J」シャフトは軟らかめの設定で振りやすかったのですが、今回の「SV-3012J」シャフトは、S、SR、Rともに全体的に手元がしっかりしながら、しなやかに振りやすい設定となっています。従って、『ZR-700』はシャフトをしならせて飛ばす感覚を得やすいやさしいドライバーと言えるでしょう。
 なお、シャフト重量においては、ヘッドスピードが速めで手元調子である60g台の「T-65」シャフトと、ヘッドスピードが普通からやや速めの方用に50g台の「T-55」シャフトの2種類を用意しています。
 
6. 製造精度の高いヘッド
 今回、試打したクラブ、計測したヘッド、また別件で拝見したヘッドなど、多くの『ZR-700』のヘッドを見てきましたが、すべて体積が459ccで揃っていました。今まで非常に多くのヘッドを見て来ましたが、複数個のヘッドで体積が完全に同じにできているヘッドは少ないものです。驚きました。
 

■松尾好員の辛口トーク
1)Sシャフトをもっと硬く
 『ZR-700』を全体的に見ますと、ヘッドはやさしくシャフトはしなやかにして、振りやすくして飛ばそうという意図が感じられます。この結果、『スリクソン』は難しいのでは?と思い込んでいた方でも、今回の『ZR-700』は十分に使えるクラブになったと思います。
 しかしその反面、現役アスリートにとっては、Sフレックスが軟らか過ぎると感じる人もいると思います。そういう人には、カスタムクラブの対応がよいように思います。

2)シニアアスリートには10.5度のSRが良い
 これは辛口トークではないですが、ヘッド速度が43m/s前後に多いシニアアスリートの方々には、ぜひ一度10.5度SRを試して欲しいと思います。ヘッドのリアルロフト、わずかにフックなフェース角、315gのクラブ重量、しなやかなシャフトと、本当に相性が良さそうです。


SRIXON ZR-700ドライバー 実測データ
  ZR-700 ZR-600
T-65
9.5度
S
T-65
10.5度
SR
T-55
10.5度
R
9.5-S 10.5-S
クラブ長さ inch 44.9 44.9 44.9 44.8 44.8
クラブ重さ g 318.6 315.2 305.7 316.5 317.2
スイングウエイト   D1.7 D0.8 C9.8 D1.2 D1.2
クラブ慣性モーメント gcm2 290万 288万 284万 288万 289万
 
ヘッド重さ g 197.0 196.8 - 197.3 197.1
ヘッド体積 ml 459 459 - 443 449
リアルロフト deg 10.8 11.8 - 9.7 11.2
ライ角 deg 57.5 57.5 - 57.0 57.2
フェース角 deg OPEN
0.3
HOOK
0.5
- 0.0 HOOK
0.5
フェースプログレッション mm 19.0 19.7 - 18.3 19.1
 
重心距離 mm 40.4 39.9 - 38.4 38.7
重心深度 mm 34.7 34.0 - 33.4 33.6
重心角 deg 19.4 18.9 - 19.8 19.2
フェース高さ mm 56.8 56.4 - 58.8 58.7
スウィートスポット高さ mm 36.5 35.3 - 35.3 35.4
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,021 4,037 - 3,848 3,845
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,523 2,529 - 2,505 2,506
ネック軸回りモーメント gcm2 6,773 6,598 - 6,447 6,456
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。