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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.50 『スリクソン ZR-700』アイアンを検証する

 前モデルの『スリクソンZR-600』アイアンは、構えやすく、多くのアスリートゴルファーから支持された優れたものでした。今回の『ZR-700』アイアンは、ネックがよりストレートになって、視覚的にかなり変化しています。『ZR-600』とは重心位置やソールバンスも少し違っていますが、果たして『ZR-700』の性能はどのようなものでしょうか、じっくり検証してみたいと思います。(実測データは別表)

1. 慣性モーメントが大きくなり、やさしくなったヘッド
 今回の『ZR-700』は、前モデルの『ZR-600』に比べて、全体的にフェース高さが少し低くなっています。フェースの長さについては設計上わずかに短くなっていますが、ややシャローフェースになっていますし、スコアラインが長めですので、視覚的にはフェースの長さの違いはあまり感じません。
 しかし、重心位置設計に変化があります。『ZR-600』はややヒール寄り重心でフェード系弾道を意識した設計でしたが、『ZR-700』は『ZR-600』よりも重心距離が長くなり、ヘッドの慣性モーメント(左右)が約5%大きくなっています。また、ネック軸回り慣性モーメントも大きくなっていますので、フェース面のややトウ寄りのミスヒットでも当たり負けしにくくなっています。従って、トップアマを目指す一般上級者の方々にも使いやすくなりました。
 
2. さらにストレート感のあるネックになった
 前モデルの『ZR-600』もストレートネックでスクエア感がよく出ていたのですが、『ZR-700』ではフェースプログレッションが5番で4mmと大きくなり、さらにストレートネック仕様となっています。
 従って、ターゲットに対してスクエアにアドレスしやすいことはもちろん、アドレス時にやや球を左足寄りにセットする方にとって構えやすくなり、同時に高い弾道が打ちやすくなっています。
 
3. ソールバンスが大きくなり、ソールが抜けやすい
 実は今回の『ZR-700』では、前モデルの『ZR-600』と比べて、実測ヘッドで大きな変化が出ているのがソールのバンス角です。ソール面そのものはきれいなラウンドソールなのですが、『ZR-600』よりも明らかにバンス角が大きくなっています。
 従って、5番でもダウンブローに打てる上級者にとって、『ZR-700』はソールがとても抜けやすくなっています。練習場のマットの上では逆に跳ねる感じがするかも知れませんが、実際のコースで打つとその抜けの良さを実感できますし、特に芝の薄いところからは上手くソールが抜けてくれます。『ZR-700』の設計者は、ある程度ダウンブローに打てる方に使ってもらおうと意図していると思います。
 
4. 低いスイートスポット高さをキープ
 実はプロモデルアイアンでも、スイートスポットの高さは低いものです。『ZR-700』も5番で20.2mmという低いスイートスポット高さを維持しています。このために、フェアウェイや芝の薄い悪いライからでもフェースの芯で球をとらえやすくなっています。逆にパー3ホールでアベレージゴルファーのようにティアップを高くすると、球がスイートスポットの上側に当たりやすいので上級者でも注意が必要です。
 
5. 「NS950」装着で振りやすい
 『ZR-700』の「NS950」シャフト装着モデルは、ヘッド速度が43m/sくらいの方に振りやすくなっています。ということは、ドライバーですと、10.5度のSRとのマッチングが良さそうです。プロモデルを使ってみたいが難しいのでは?と思っていた方にとって、『ZR-700』は使いやすいモデルですし、スイングを磨いていくことも可能に思います。
 
6. プレスミーリング加工で安定した弾道に
 『ZR-700』のフェース面には、ミーリング加工状の凹凸を出すためのプレス加工がされています。フェース面に細かな凹凸ができているのでバックスピン量も安定しやすくなっており、特にショートアイアンでの安定した飛距離とスピンを助けています。
 

■松尾好員の辛口トーク

シャフトが内側に向いて入っているように見える

 実際試打しても打感が良く、「プロモデルアイアンはやはり完成度が高くいいなぁ」と感じます。試打ではPWも打ちましたが、丸みを帯びた形状とストレートネックで、柔らかい球を打つことができました。
 ただ、敢えて言えば、シャフトがややヘッドの内側に向けて挿入されているように見えます。私の好みではないのですが、これはあくまで個人的な主観です。


SRIXON ZR-700アイアン(DGシャフト)実測値
  ZR-700 ZR-600
#5
S200
#7
S200
#5
S200
#7
S200
クラブ長さ inch 37.5 36.5 37.5 36.5
クラブ重さ g 429.5 442.4 429.3 444.1
スイングウエイト   D2.4 D2.4 D2.0 D2.2
クラブ慣性モーメント gcm2 276万 274万 275万 273万
 
ヘッド重さ g 255.5 268.7 256.6 266.5
リアルロフト deg 27.2 34.0 27.0 34.0
ライ角 deg 60.8 62.5 61.0 61.7
フェースプログレッション mm 4.0 4.0 3.8 3.9
ソール角 deg 4.4 4.8 2.0 3.4
 
重心距離 mm 35.1 35.7 34.6 34.5
重心深度 mm 2.7 2.4 3.1 2.6
重心角 deg 10.0 12.1 10.7 12.9
スウィートスポット高さ mm 20.2 19.9 20.1 20.2
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 2,241 2,353 2,135 2,304
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 524 566 564 587
ネック軸回りモーメント gcm2 4,813 5,282 4,748 5,135

SRIXON ZR-700アイアン(NS950シャフト)実測値
  ZR-700 ZR-600
#5 S #7 S #5 R #7 R #5 R #7 R
クラブ長さ inch 37.75 36.75 37.75 36.75 37.75 36.75
クラブ重さ g 400.7 412.7 398.9 410.1 395.8 410.6
スイングウエイト   D1.4 D1.4 D1.4 D1.2 D1.0 D0.8
クラブ慣性モーメント gcm2 271.2万 268.2万 270.8万 267.9万 269万 267万
 
ヘッド重さ g 255.5 268.7 - - 256.6 266.5
リアルロフト deg 27.2 34.0 - - 27.0 34.0
ライ角 deg 60.8 62.5 - - 61.0 61.7
フェースプログレッション mm 4.0 4.0 - - 3.8 3.9
ソール角 deg 4.4 4.8 - - 2.0 3.4
 
重心距離 mm 35.1 35.7 - - 34.6 34.5
重心深度 mm 2.7 2.4 - - 3.1 2.6
重心角 deg 10.0 12.1 - - 10.7 12.9
スウィートスポット高さ mm 20.2 19.9 - - 20.1 20.2
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 2,241 2,353     2,135 2,304
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 524 566     564 587
ネック軸回りモーメント gcm2 4,813 5,282     4,748 5,135
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。