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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.51 『The ゼクシオ』アイアンを検証する

 2008年モデルの『The ゼクシオ』は、初代『ゼクシオ』から数えて5代目になりますが、その初代からいつもベストセラーモデルとして、日本の多くのゴルファーに愛されています。今回の『ゼクシオ』には「The」という文字が付いています。ブランドが強調されており、メーカーの自信をより強く感じますが、はたして性能的にも進化し続けているのでしょうか? 今回はアイアンから先にじっくりと検証してみました。
(実測データは別表)

1. やさしくなったヘッド
 まず今回の『The ゼクシオ』アイアンのヘッド背面であるバックフェースを見ますと、キャビティ部がトウ側とヒール側に重量配分されていることがよくわかります。これによって、ヘッドの慣性モーメントを大きくしようとする意図がはっきりと伝わってきます。実際7番アイアンのヘッドを計測したところ、前4代目『ALL NEW ゼクシオ』と比較して、ヘッドの慣性モーメント(左右方向)が約4%も大きくなっていることがわかりました。
 アベレージゴルファーの場合、アイアンではボールの打点がトウ側に外れるミスが多いので、ヘッドの慣性モーメントが大きいことは、実際のプレーできっと役に立つはずです。
 また、ライ角度が0.5度アップライの設定になっていますので、より球がつかまりやすく、右方向へのミスを防いでくれます。
 こうしたことからも、今回の『The ゼクシオ』アイアンは、全般にやさしくなったと感じられると思います。
 
2. 打ち出し角度が上がり、飛距離アップ
 今回の『The ゼクシオ』アイアンは、ヘッドの構造的には前モデルと似ていると思われる方も多いかも知れません。しかし前モデルと比べて、ソール面に配置されたタングステン合金の重さが劇的に大きくなっています。
 このため、ロフト角が5番アイアンよりも大きい7番アイアンでも、スイートスポットが低くできています。そして、低重心と深い重心深度により、高い打ち出し角度が得られます。
 近年アイアンではストロングロフト化が進んでおり、各番手のロフト角が小さくなっているために、ヘッド速度が遅めのプレーヤーにとってはフェアウェイから球が上がりにくくなってきています。
 球が上がらない、つまり打ち出し角度が低いと満足なキャリーが得られないのですが、今回の『The ゼクシオ』アイアンは打ち出し角度が高くなるため、アベレージゴルファーのキャリーをアップさせてくれることでしょう。
 
3. シャフトでも、楽に球を飛ばしてくれる
 『The ゼクシオ』アイアンのシャフトは、カーボンシャフトの「MP500」と軽量スチールの「NS PRO 950GH HT」の2種類がありますが、そのどちらも「シャフトの中央を軟らかくする」という同じコンセプトで開発されています。
 まず「MP500カーボンシャフト」では、手元部の剛性(硬さと考えても良いでしょう)をより高くして、スイングするときの手元の安定感を出しています。そしてその上で、中央部が軟らかく作られていますので、ダウンスイング中にしなりを感じやすく、しかも打ち出し角度が高くなり、ヘッド速度が余り速くないアベレージゴルファーにとっても飛距離アップにつながっています。 
 また『The ゼクシオ』専用設計の軽量スチールシャフト、「NS PRO 950GH HT」はシャフトの中央部の外径を細くすることで剛性を下げ、その中央部を軟らかく作っています。手元部の剛性は前モデルと同じですので、手元はしっかりし、その中央部の軟らかい部分で打ち出し角度が高くなり、飛距離が出やすくなっています。もちろん、「MP500」のカーボンシャフトよりもクラブ重量が重くなりますので、カーボンシャフト仕様に比べてやや弾道は低くなり、風に負けない強い弾道も打ちやすくなっています。
 そして、振りやすさを判断するクラブ慣性モーメントから見ますと、カーボンと軽量スチールで約10万gcm2の差がありますので、対象者のヘッド速度では約5~6m/sくらいの差があると思ってよいでしょう。すなわち、「MP500」のSフレックスだとドライバーのヘッド速度が40m/sくらいの方に、また「950GH HT」のSフレックスだとヘッド速度が45m/sくらいの方にちょうど合っていると思います。
 
4. スコアメイクしやすくなった
 『The ゼクシオ』アイアンのロフト体系は前モデルと基本的には同じです。ですが、今回の『The ゼクシオ』ではアプローチウエッジの47度と53度が新たにラインアップされ、従来の44度のPWと50度のAWの間、そして50度のAWと56度のSWの間を上手く埋めてくれています。
 一般のシニアアベレージゴルファーでは従来の50度のAWでは100ヤードの飛距離が出ないケースも多く、100ヤードをコントロールして打てる番手が欲しかった方には47度のAWは最適です。
 また、47度のAWを加えた場合、その次の番手はグリーン周りのアプローチ用として53度のAWがよいでしょう。ストロングロフト化しているアイアン全般ですが、ピンを狙うウエッジエリアのロフト間隔を上手く揃えたほうが、スコアメイクには役に立つでしょう。
 

■松尾好員の辛口トーク
軽量スチールシャフト仕様のクラブが少し長い
 前モデル同様、カーボンシャフトと軽量スチールシャフトで、クラブ長さが同じ設定になっています。全く私の個人的な意見ですが、ユーザー対象が主にアベレージゴルファーだとすると、軽量スチールシャフトのほうを、例えば0.25インチ(1/4インチ)短くすると、より幅広い方が使いやすくなる可能性があります。ただし、ヘッドスピードはやや遅くなりますので、難しい判断ではあると思います。


The ゼクシオ アイアン実測データ
  The ゼクシオ 前モデル
#5
MP500
S
#7
MP500
R
#5
950 HT
S
#7
950 HT
R
#5
950
S
#7
MP400
R
クラブ長さ inch 38.0 37.0 38.0 37.0 38.0 37.0
クラブ重さ g 365.0 368.5 398.5 408.4 401.7 369.0
スイングウエイト   D0.2 C9.7 D2.2 D1.4 D1.7 C9.2
クラブ慣性モーメント gcm2 265万 260万 274万 270万 274万 259万
 
ヘッド重さ g 249.7 263.0 - - 253.1 263.4
リアルロフト deg 23.8 30.2 - - 24.0 30.0
ライ角 deg 61.0 62.0 - - 60.5 61.4
フェースプログレッション mm 0.8 2.9 - - 1.7 2.0
ソール角 deg -2.2 0.2 - - -1.0 -0.7
 
重心距離 mm 38.8 39.5 - - 38.9 39.8
重心角 deg 13.5 14.0 - - 14.4 16.0
スウィートスポット高さ mm 20.3 20.7 - - 20.6 20.9
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 2,632 2,762 - - 2,542 2,659
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 583 617 - - 618 647
ネック軸回りモーメント gcm2 6,260 6,538 - - 6,129 6,664
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。