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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.52 『The ゼクシオ』ドライバーを検証する

 2008年、『ゼクシオ』のフルモデルチェンジする年がやってきました。今回の『Theゼクシオ』は、2000年発売の初代から数えて5代目になり、その間にヘッドの高反発化や大容量化、そしてSLE規則適合化など、様々な時代を経験してきました。そして、今年は本当の意味でのSLE規則適合時代に入り、『ゼクシオ』が再び注目されることでしょう。 
 今回の『Theゼクシオ』は『ゼクシオ』に「The」という冠を付けたメーカーの自信作ということですし、多くのゴルファーも注目していますので、じっくりと検証してみることにしました。
(実測データは別表で、前モデルとの比較付き)

1. 原点に戻ったようなやさしいヘッド
 『ゼクシオ』の過去の4モデルを思い出しますと、初代はやさしく、2代目はやさしさ+反発性能、3代目はさらなる高反発性能の追求、4代目は大容量化における飛びと安定性のバランス性能であったと思います。しかし、高反発や低重心など進化の途中で、クラブの扱いやすさとしては難しくなる側面もあったと思います。
 ところが今回の『Theゼクシオ』には、「誰でもやさしく打てる」という開発テーマがあったのでしょうか? 前4代目のときとは明らかに違う弾道、つまり1球目からハイドロー弾道が打ちやすくなりました。
 
2. ミスショットに強いやさしいヘッド
 今回の『Theゼクシオ』は、前4代目とは大きくヘッドの形状が変わりました。ヘッドの投影面積が非常に大きくなり、構えたときにいかにも上手く打てそうな安心感が伝わってきます。
 実際にヘッドの慣性モーメントが大きくなり、フェースの芯を外れたミスヒットにも強くなっているので、しっかりとスイングすることができます。
 また、フェースの丸み、つまりバルジとロールを6分割に設計を変え、フェースの中央付近から離れた打点でのミスショットに対して、方向性の改善と飛距離のロスを防ぐ対応がなされています。
 
3. つかまえて飛ばす高レベルの設計技術
 『Theゼクシオ』のヘッドは、クラウン(上面)が0.45mmの極薄肉のチタン板材が使われ、ヘッドの上面が軽量化されています。また、フェース面には標準よりも少し比重の軽いチタン合金を使うことで、フェース面も軽量化されています。これらから得られた余剰重量が適切な重量配分に使われ、球をつかまえて飛ばしていく設計につながっています。
 
4. 球が上がりやすく、高いドロー系弾道が打ちやすい
 『Theゼクシオ』では、ロフト角表示が従来の整数表示から、0.5が加わった表示に変わりました。リアルロフト角も前モデルより大きくなり、球が上がりやすくなっています。また、前モデルよりもヘッドの横幅がかなり広くなったこともありますが、ヘッドの重心深度が非常に深くなり、インパクトロフトが大きくなって、高い打ち出し角度を得られるようになりました。
 そして、アップライになったライ角、小さくなったフェースプログレッションにより、球がつかまりやすくなっています。力まず、素振りのようにスイングすれば自然と球がつかまるでしょう。しかも、高めのインパクトサウンドは健在で、打っていて爽快感があります。
 
5. 球をつかまえ、大きく飛ばすシャフト
 『Theゼクシオ』は、ヘッドが球をつかまえるだけではありません。シャフトも球をつかまえてくれます。今回の「MP500」シャフトは、手元部の剛性が上がり、ダウンスイングでのシャフトの無駄な変形を抑えてくれます。そして、中央部付近が軟らかく設計されていますので、しなり戻りのタイミングが良く、シャフトでも球がつかまりやすくなっています。
 
6. 高打ち出しで、低スピンも得られる
 球の打ち出し角度とスピン量というのは密接な関係にあり、一般に打ち出し角度が高いとバックスピン量は少なくなります。『Theゼクシオ』では、ヘッドとシャフトの両方の効果で高い打ち出し角度を得られますので、大きな飛距離アップが望めます。
 
7. しっかり振れるミドルウエイトシャフト
 『ゼクシオ』はアベレージゴルファーがメインターゲットですので、40g台から50g前半のシャフトが標準仕様となってきました。しかし、一部にはもっと重量感があり、少ししっかりしたシャフトを好むゴルファーがいるのも事実で、そういった方々はこれまではリシャフトして『ゼクシオ』を使っていたことと思います。
 しかし、今回の『Theゼクシオ』では、これまでの重量の「MP500」シャフトに加え、最初からミドルウエイトの「MP500M」シャフトが用意されているため、そういったシャフトを求められていた方もきっと満足されることでしょう。標準の「MP500」よりも手元がよりしっかりし、シャフト重量は約10g重くなっています。
 

■松尾好員の辛口トーク
 原点復帰したようなやさしい『Theゼクシオ』ドライバーですが、ヘッドの重心がヒールよりの、さらに「つかまり系仕様」でも良かったかなと思います。


The ゼクシオ ドライバー実測データ
  The ゼクシオ 前モデル
9.5度
S
MP500
10.5度
SR
MP500
11.5度
R
MP500
9.5度 S
ミドル
ウェイト
9度
S
MP400
10度
R
MP400
クラブ長さ inch 45.75 45.75 45.75 45.75 45.1 45.1
クラブ重さ g 289.3 286.9 283.3 295.7 294.3 288.7
スイングウエイト   D1.8 D2.3 D1.2 D2.2 D1.5 D1.2
クラブ慣性モーメント gcm2 288万 288万 286万 290万 288万 285万
 
ヘッド重さ g 188.9 188.6 - - 194.5 195.9
ヘッド体積 ml 459 453 - - 455 449
リアルロフト deg 10.9 12.2 - - 10.6 11.5
ライ角 deg 58.0 58.0 - - 57.5 57.0
フェース角 deg HOOK
1.3
HOOK
2.5
- - HOOK
1.0
HOOK
1.5
フェースプログレッション mm 17.9 19.4 - - 19.0 19.8
 
重心距離 mm 40.1 39.9 - - 41.6 40.0
重心深度 mm 38.3 37.6 - - 35.6 35.4
重心角 deg 26.0 23.0 - - 20.6 20.4
フェース高さ mm 53.2 53.2 - - 56.5 56.5
スウィートスポット高さ mm 34.2 34.9 - - 35.6 35.2
低重心率 % 64.3 65.6 - - 63.0 62.3
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,164 4,133 - - 4,132 4,106
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,522 2,478 - - 2,506 2,493
ネック軸回りモーメント gcm2 7,040 7,019 - - 7,246 6,971
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。