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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.54 『スリクソン ZR-800』ドライバーを検証する

 世界のトーナメントシーンでよく目にするようになった『スリクソン』。そのブランドは着実に浸透して行っているようです。
 さて、今秋、『スリクソン』ブランドの新しいドライバー、『スリクソン ZR-800』が発売されました。一発の飛びの『スリクソン ZR-600』、弾道安定性の『スリクソン ZR-700』と来ていますが、今回の『スリクソン ZR-800』はどのように進化しているのか、非常に興味深いところです。いつものようにじっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)

1. やさしいプロモデル
 今回の『ZR-800』の全体の形状は、従来の『スリクソン』ドライバーとは少し異なり、ヘッドのトウ側右寄りにボリューム感が出ています。ヘッド全体の投影面積も大きく、フェース長さも長くなっており、上級者を目指すアベレージゴルファーにとっても打ちやすそうな安心感が出ています。
 また、かつての『スリクソン』ドライバーはややフックフェース気味でしたが、『ZR-800』はきれいなスクエアフェースとなり、スクエア感を大事にするプレーヤーにとって、随分構えやすくなりました。
 ヘッドの慣性モーメント(左右方向)は『ZR-700』よりも約5%大きくなっており、フェース面のスイートスポットを外れた時でもヘッドのブレが少なくなり、飛距離、方向性ともによくなっています。
 
2. 飛距離性能も良好
 今回の『ZR-800』は単にやさしいだけのドライバーではありません。フェースの芯で球を捕らえたときは、非常に強い弾道が出ます。理由の1つは、優れたデジタルシミュレーションを駆使して設計された「パワーチャージフェース」が、フェース全体の反発を高めに維持しているからです。
 理由の2つめはスピンコントロールです。ヘッドスピードの速いゴルファーが使用することを想定したロフト9.5度のヘッドでは、重心が『ZR-700』に比べて低くなっており、バックスピンが不必要に多くなり過ぎないようにして、その結果、飛距離がアップします。
 また、ヘッドスピードがやや遅めのゴルファーを対象としているロフト10.5度のヘッドでは、最適なバックスピン量になるように重心位置を決めているので、今まで球がドロップしやすかったプレーヤーでも伸びのあるキャリーを実現できます。
 
3. 大型ヘッドだが、球がつかまる
 最近の一般的な大型ヘッドでは、ヘッドを大きく作ることだけにとらわれて、肝心の「球をつかまえる」ということがおろそかになっているものを多く見かけます。
 しかし、今回の『ZR-800』では大型ヘッドにもかかわらず、ネック軸回りの慣性モーメントが小さく作られており、ヘッドの操作性(ヘッドの返りやすさ)がよくなって球がつかまりやすくなっています。また、ロフトが9.5度よりも10.5度のヘッドのほうがネック軸回りの慣性モーメントが小さくなっており、より球をつかまえたいプレーヤーに適しています。
 
4. 様々なヘッドスピードのアスリートゴルファーに適した
クラブ重量とシャフト

 今回の『ZR-800』では、ロフト9.5度に標準の「SV-3016J T-65」のSシャフトを装着した場合、クラブ重量が317g、クラブ慣性モーメントが291万gcm2ですので、ヘッドスピードが45~46m/sくらいの方がタイミングよく振りやすくなっています。「T-65」のSシャフトは手元と先側が結構しっかりしており、ヘッドスピードの速いゴルファーがしっかりスイングできるシャフトに仕上がっています。 
 ロフト10.5度に標準の「SV-3016J T-65」のSRシャフトを装着した場合では、クラブ重量が314g、クラブ慣性モーメントが288万gcm2ですので、ヘッドスピードが43~44m/sくらいの方がタイミングよく振りやすくなっています。「T-65」のSRシャフトは、しなり感とともに適度なしっかり感もありますので、シニアアスリートゴルファーにとっては選択の1つとなるでしょう。
 また、ロフト10.5度に標準の「SV-3016J T-55」のRシャフトを装着した場合は、クラブ重量が306gと軽くなり、クラブ慣性モーメントが286万gcm2ですので、ヘッドスピードが42m/s前後の方がタイミングよく振りやすくなっています。「T-55」のRシャフトは、上記2つのシャフトに比べてかなりしなり感が出ており、ダウンスイングでもシャフトのしなりを感じられます。今回は検証できていませんが、「T-55」のSシャフトもシニアアスリートゴルファーにとって選択肢の1つになると思います。
 

■松尾好員の辛口トーク

完成度の高いドライバーです
 『ZR-600』は飛ぶことは飛ぶが、少し難しい。『ZR-600』を知っている人にとっては、『ZR-700』はやさしいのだけど、ちょっとアゲンストの風のときに飛距離がもの足りない。これまでの『スリクソン』をそんなふうに感じているプレーヤーもいたのではないでしょうか?
 しかし、今回の『ZR-800』は大型ヘッドのプロモデルとしてはかなり完成度が高いと思います。爽快な高いインパクトサウンド、ヘッドが大きいがドローに打とうとすれば球をつかまえられる。
 ヘッド全体の形状もやさしい感じが上手く出ていますので、これからシングルハンデを目指すアベレージゴルファーの方にとってもよい選択肢となることでしょう。

SRIXON ZR-800 ドライバー 実測データ
  ZR800
9.5
T65-S
ZR800
10.5
T65-SR
ZR800
10.5
T55-R
ZR700
9.5
S
ZR700
10.5
SR
クラブ長さ inch 45.1 45.1 45.1 44.9 44.9
クラブ重さ g 317.3 314.0 305.7 318.6 315.2
スイングウエイト   D2.0 D0.8 D0.2 D1.7 D0.8
クラブ慣性モーメント gcm2 291万 288万 286万 290万 288万
 
ヘッド重さ g 197.1 197.2 - 197.0 196.8
ヘッド体積 ml 451 454 - 459 459
リアルロフト deg 10.6 12.7 - 10.8 11.8
ライ角 deg 58.0 58.0 - 57.5 57.5
フェース角 deg 0.0 HOOK
0.5
- OPEN
0.3
HOOK
0.5
フェースプログレッション mm 18.8 19.6 - 19.0 19.7
 
重心距離 mm 40.0 38.4 - 40.4 39.9
重心深度 mm 34.3 34.4 - 34.7 34.0
フェース高さ mm 57.4 57.2 - 56.8 56.4
スウィートスポット高さ mm 35.6 36.8 - 36.5 35.3
低重心率 % 62.0 64.3 - 64.3 62.6
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,226 4,217 - 4,021 4,037
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,439 2,438 - 2,523 2,529
ネック軸回りモーメント gcm2 6,794 6,524 - 6,773 6,598
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。