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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.55 『スリクソン ZR-30』ドライバーを検証する

 今秋、『スリクソン』のドライバーは、ヘッドの大きな『スリクソン ZR-800』と同時に、やや小さめのヘッドの『スリクソン ZR-30』も発売されました。
 一般ゴルファーの中には「今さらどうして小さなヘッドが必要なの?」と疑問を持つ方もいらっしゃるかも知れませんが、実はなかなかの優れものなのです。『ZR-800』と同様にじっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)

1. 小さくても力持ちのプロモデル
 今回の『スリクソン ZR-800』と『スリクソン ZR-30』を同時に比べると、『ZR-30』のヘッドがかなり小さく見えます。ほとんどのアマチュアゴルファーなら、ヘッドの大きなほうの『ZR-800』を選ばれるかも知れません。しかし、逆も真なりで、『ZR-30』を毎日見ていると『ZR-800』が非常に大きく見えてしまうのも事実です。
 私はこの小さいヘッドの『ZR-30』を「力持ちのプロモデル」と呼んでいます。どうしてかと言いますと、ずばり『ZR-30』の弾道は強いのです。
 ヘッドが小さいのでヘッドの操作性がよく、同時にフェースプログレッションが小さいので、アイアンのグースネックのように球がつかまりやすいのです。球がストレートから軽いドロー系に飛んで、しかも弾道が中弾道から低めに飛びますので、フェアウェイへの落下角が小さくなり、強いランが得られるというわけです。
 
2. レベルスイングを作りやすい
 今回の『ZR-30』はヘッドが小さいだけではなく、他にもメリットがあります。
 大型ヘッドとは違い、ヘッドが小さいために、ティショットの際に高いティアップを必要としなくなります。実際、ヘッドのスイートスポット高さが34.8mm(ロフト9.5度)とかなり低いので、高いティアップであおるようなアッパースイングをする必要がありません。低めのティアップでレベルスイングをすれば、ヘッドが強い球を打ち出してくれるのです。
 
3. 球をつかまえることの重要性
 最近の一般的な大型ヘッドは、球をつかまえるという肝心なことがおろそかになっているものが多いのです。いくらヘッドを大きくしてヘッドの慣性モーメントを上げても、ヘッドの返りが遅くなって、スクエアインパクトができなければ意味がありません。
 今回の『ZR-30』は、ネック軸回りの慣性モーメントが小さく作られており、ヘッドの操作性(ヘッドの返りやすさ)がよく、さらに小さなフェースプログレションで球がつかまります。従って、球がつかまえられないスライサーにとっては、この『ZR-30』をぜひ試してみることをお勧めします。
 
4. アスリートゴルファーに適したクラブ重量とシャフト
 今回の『ZR-30』では、標準の「SV-3017J」のSシャフト仕様で、クラブ重量が318g、クラブ慣性モーメントが290万gcm2ですので、ヘッドスピードが45m/sくらいの方がタイミングよく振りやすくなっています。
 そして、「SV-3017J」のSシャフト仕様では「SV-3016J」よりもしっかり感があり、よりヘッドスピードが速いゴルファーでもしっかり叩くことができるシャフトに仕上がっています。
 

■松尾好員の辛口トーク

シャフトバリエーションがほしい
 今回の『スリクソン ZR-30』は中低弾道を打ちやすいヘッドで、確かに強い球が出ます。ティショットがフェアウェイにあれば、『ZR-800』よりも飛距離が出る感じがあります。 
 ただ、標準仕様では、シャフトは「SV-3017J」の66g(Sフレックス)のものしかありません。この場合、クラブ重量は先にも示したように、318gあります。
 球をつかまえたいゴルファーで、ヘッドスピードが遅めのシニアの方も多くいらっしゃるはずなので、クラブ重量が305g前後となる標準仕様もほしいところです。
 ゴルファーにとっては、球のつかまりや中低弾道による飛距離性能など、『ZR-800』と同じように『ZR-30』も試したいものなのです。

インパクトサウンドが重厚すぎる
 『ザ・ゼクシオ』も『スリクソン ZR-800』もインパクトサウンドは心地よい高音です。ところが、この『ZR-30』はインパクトサウンドが低く、重厚感はあるのですが、欲を言えば「飛んだ!」と思える感触がもっと欲しいところです。

SRIXON ZR-30 ドライバー 実測データ
  ZR30
9.5
3017J-S
ZR800
9.5
T65-S
W505
9.5
SLE適合
クラブ長さ inch 45.0 45.1 44.8
クラブ重さ g 318.0 317.3 322.8
スイングウエイト   D1.8 D2.0 D2.5
クラブ慣性モーメント gcm2 290万 291万 292万
 
ヘッド重さ g 196.1 197.1 195.1
ヘッド体積 ml 419 451 423
リアルロフト deg 10.5 10.6 10.2
ライ角 deg 58.5 58.0 56.5
フェース角 deg OPEN 0.5 0.0 HOOK 0.5
フェースプログレッション mm 16.2 18.8 18.7
 
重心距離 mm 38.4 40.0 37.9
重心深度 mm 32.2 34.3 31.5
フェース高さ mm 57.0 57.4 56.5
スウィートスポット高さ mm 34.8 35.6 35.3
低重心率 % 61.1 62.0 62.5
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 3,870 4,226 3,748
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,176 2,439 2,319
ネック軸回りモーメント gcm2 6,206 6,794 6,168
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。