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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.56 『スリクソン ZR-800』アイアンを検証する

 今回、『スリクソン』ブランドから、ドライバーが『ZR-800』と『ZR-30』の2モデルが新登場しましたが、アイアンも同時に『ZR-800』と『ZR-30』の2モデルが新しく登場しました。まずは『ZR-800』がどのようなアイアンか見てみたいと思います。2代前の『ZR-600』はヒール寄り打点でフェード系弾道をイメージしたもの、前モデルの『ZR-700』はストレートネックながらも球をつかまえるイメージが出たものとなっていましたが、今回の『ZR-800』の性能はどのようなものでしょうか、ドライバーと同様にじっくり検証してみることにしました。
(実測データは別表)

1. フェード系弾道イメージのヘッド
 今回の『ZR-800』は『ZR-600』や『ZR-700』に比べて、アドレスした時にフェースのトウ側が逃げているフェード系イメージのヘッドとなっています。トップラインからネックにつながる部分の形状が変わり、視覚的にフェースのトウ側が逃げている感じを上手く表現しています。また、『ZR-700』に比べてヒール寄り重心になり、ネック軸回りの慣性モーメントも小さくなっていますので、ヘッドの操作性がよくなっています。
 
2. 低いスウィートスポット高さをキープ
 『ZR-700』と同様に『ZR-800』も、スイートスポット高さが5番アイアンで20.3mmと低くできています。このために、芝の薄い悪いライからでもフェースの芯で球をとらえられ、よいショットをしやすくなっています。パ?3ホールのティショットでは芝面スレスレの低いティアップでちょうどよいと思います。いつも高めのティアップをする方は球がスイートスポットの上側に当たりやすく、飛距離が出なくなりますので注意するとよいでしょう。
 
3. ソールバンスが小さくなってスイープに打てる
 ソールのバンス角には設計者の意図が出てくるものです。5番アイアンのバンス角を見てみると、2代前の『ZR-600』が3.8度、前モデルの『ZR-700』が4.4度でしたので、ダウンブロースイングを要求されていました。しかし、今回の『ZR-800』では2.7度とやや小さくなりましたので、スイープ的なスイングでもソールが抜けるようになっています。また、特にヒール側のカットソールにより、設置面積が小さくなって、さらに抜けがよくなっています。
 
4. 「プレスミーリングフェース」で安定したスピン性能
 『ZR-800』のフェース面には筋状のラインがプレス加工されています。フェース面に細かなラインができているので、特にショートアイアンでのバックスピン量が安定し、晴天で乾いた時と雨で濡れた時でのバックスピン量の差を小さくしています。
 

■松尾好員の辛口トーク

トウの形状が丸く、フェースが長く見える
 今回の『ZR-800』は、ヘッドの全体形状は問題ないのですが、フェース面が逃げて見えるフェード系イメージアイアンにしては、トウ側の丸みが強く、その結果フェースが長く見えます。トップラインからネックにつながる部分の形状を変えたのと同時に、フェースのトウ先の形状も変えて良かったのではと個人的には思います。

ショートアイアンのリーティングエッジが丸い
 ロングアイアンからミドルアイアンへのつながりは問題のない『ZR-800』ですが、7番アイアンくらいからショートアイアンにかけてソールの丸みが強いように思います。その結果、構えたときにショートアイアンのリーディングエッジが丸くなり過ぎている感じがありますので、もう少し丸みを抑えたほうがよかったのではと思います。

SRIXON ZR-800 アイアン
ダイナミックゴールドシャフト 実測データ
  ZR-800
#5
S200
ZR-800
#7
S200
ZR-800
PW
S200
ZR-700
#5
S200
ZR-700
#7
S200
クラブ長さ inch 37.5 36.5 35.0 37.5 36.5
クラブ重さ g 429.5 443.8 471.0 429.5 442.4
スイングウエイト   D2.5 D2.2 D3.2 D2.5 D2.5
クラブ慣性モーメント gcm2 276万 273万 272万 276万 274万
 
ヘッド重さ g 253.6 268.5 - 255.5 268.7
リアルロフト deg 27.0 33.5 - 27.2 34.0
ライ角 deg 60.7 62.2 - 60.8 62.5
フェースプログレッション mm 3.8 4.6 - 4.4 4.6
ソール角 deg 2.7 5.0 - 4.4 4.8
 
重心距離 mm 34.7 35.2 - 35.1 35.7
重心深度 mm 2.0 1.6 - 2.7 2.4
スウィートスポット高さ mm 20.3 20.4 - 20.2 19.9
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 2,274 2,441 - 2,241 2,353
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 513 588 - 524 566
ネック軸回りモーメント gcm2 4,730 5,175 - 4,813 5,282

SRIXON ZR-800 アイアン
NSプロ950GHスチールシャフト 実測データ
  ZR-800
#5 S
ZR-800
#7 S
ZR-800
PW S
ZR-800
#5 R
ZR-800
#7 R
ZR-800
PW R
クラブ長さ inch 37.75 36.75 35.25 37.75 36.75 35.25
クラブ重さ g 400.5 412.7 437.6 397.1 410.4 434.7
スイングウエイト   D1.7 D1.7 D2.5 D1.7 D1.5 D2.6
クラブ慣性モーメント gcm2 271万 268.1万 266.8万 270万 267.9万 266.6万
 
ヘッド重さ g 253.6 268.5 - - - -
リアルロフト deg 27.0 33.5 - - - -
ライ角 deg 60.7 62.2 - - - -
フェースプログレッション mm 3.8 4.6 - - - -
ソール角 deg 2.7 5.0 - - - -
 
重心距離 mm 34.7 35.2 - - - -
重心深度 mm 2.0 1.6 - - - -
スウィートスポット高さ mm 20.3 20.4 - - - -
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 2,274 2,441 - - - -
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 513 588 - - - -
ネック軸回りモーメント gcm2 4,730 5,175 - - - -
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。