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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.58 『スリクソン ZR-UTI』アイアンを検証する

 今回『スリクソン』ブランドから新しいアイアン型のユーティリティ、『スリクソン ZR-UTI』が発売されました。アイアン型のユーティリティなので、ヘッドスピードの速いプレーヤー向きの可能性が高いと思われますが、果たしてその性能はどのようなものでしょうか、じっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)

1. 構えやすいヘッド形状
 アイアン型のユーティリティを設計する場合、通常のアイアンよりもやさしく打てるようにする必要があります。そのためにはフェース長さを長めにし、重心深度を深くするためにソール幅を広く、スイートスポット高さが高くならないようにフェース高さを低くするのが鉄則ですが、今回の『ZR-UTI』はその基本に忠実に作られています。また、グースをセミグースネックにすることよって、球をつかまえるイメージを持ってアドレスしやすくなっています。
 
2. 球が曲がりにくい
 『ZR-UTI』はユーティリティといっても基本的にアイアンですから、同じロフト角のウッド型ユーティリティに比べて、重心深度が浅いのでバックスピンが少なくなります。全体的なバックスピンが減少すると、球の曲がりに影響するスピンも減少するので球が曲がりにくくなります。
 従って、アイアン型のユーティリティである『ZR-UTI』は、フェアウェイウッドやウッド型ユーティリティでは球が曲がるプレーヤーにとっては、直線的にピンを狙えるクラブになっています。
 また『ZR-UTI』はバックスピン量が少ないので、アゲンストの風に対しても球が吹き上がりにくく、飛距離をロスしづらくなっています。
 
3. 球がつかまりすぎない
 『ZR-UTI』は、『ZR-800』や『ZR-30』のロングアイアンに比べてネック軸回りの慣性モーメントが大きくなっていますので、ヘッドの返りがややゆっくりしています。従って、球がつかまり過ぎるプレーヤーにとって、左へのミスを怖がらずに、大胆にピンを攻めることができるでしょう。
 
4. 低いスイートスポット高さをキープ
 通常は重心深度が深いとスイートスポット高さが高くなりがちですが、『ZR-UTI』のスイートスポット高さはヘッド内部の重量配分がよく、20.7mmと低い的確な高さで作られています。従って、フェアウェイからもナイスショットがしやすくなっています。
 
5. 飛距離が出る
 『ZR-UTI』はフェースの反発性能が高いことで、インパクトの爽快感は相当なものがあります。フェースの芯でボールとらえた時は、前へ前へと強い弾道で飛んで行きます。球が強いのでランも考慮に入れる必要があります。
 

■松尾好員の辛口トーク

クラブ長さが少しだけ長い印象
 ヘッドの完成度が高い『ZR-UTI』。飛距離性能は大変に優れているのですが、クラブ長さがやや長い感じがあります。
 一般的にアイアン型ユーティリティで球を上げられるのは、ヘッドスピードが速めのプレーヤーなので、クラブ長さがやや長めでもよいわけですが、クラブをやや短めにしてミート率を上げてやり、さらにクラブの慣性モーメントを小さくできれば、アベレージゴルファーの方にももっと使い勝手のよいクラブになる可能性を持っているのではないかと思います。

ZR-UTI 実測値
  U2
S
3018J
U3
S
NS950
U4
S
3018J
ZR-800
I #5 S
NS950
ZR-30
I #5 S
NS950
クラブ長さ inch 40.4 39.4 39.4 37.75 37.69
クラブ重さ g 365.0 383.8 374.0 400.5 402.3
スイングウエイト   D1.7 D1.3 D1.6 D1.7 D1.0
クラブ慣性モーメント gcm2 278万 274万 275万 271万 270万
 
ヘッド重さ g - 237.8 - 253.6 253.9
リアルロフト deg - 19.8 - 27.0 27.0
ライ角 deg - 59.8 - 60.7 61.0
フェースプログレッション mm - 2.7 - 3.8 4.1
ソール角 deg - 0.3 - 2.7 3.0
 
重心距離 mm - 36.7 - 34.7 32.5
重心深度 mm - 5.3 - 2.0 1.6
スウィートスポット高さ mm - 20.7 - 20.3 20.8
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 - 2,400 - 2,274 2,195
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 - 512 - 513 551
ネック軸回りモーメント gcm2 - 5,247 - 4,730 4,278
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。