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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.60 ニュー『ゼクシオプライム』ドライバーを検証する


 昨年、ゼクシオ史上5代目となる『The ゼクシオ』が登場しましたが、なんと5代連続となるベストセラーモデルとなり、高い人気を誇っています。そして、いつものように、その翌年に『ゼクシオ』の高級モデルである『ゼクシオプライム』のニューモデルが登場しました。外観的には上質な高級感が溢れていますが、果たしてその性能はどのように進化しているのでしょうか?じっくり検証してみることにしました。(実測データは別表で、前モデルとの比較付き)


1. 球が上がってキャリーが伸びる
 今回の『ゼクシオプライム』は、前モデルとは中味の設計が大きく変わりました。前モデルでは、ある程度幅広いゴルファーに対して飛距離性能を追求していたと思われ、かなり低重心の設計となっていました。そのために、『ゼクシオプライム』が得意とする、ややヘッドスピードが遅めのゴルファーにとっては、時として球がドロップしてしまい、正直キャリーをロスすることがあったと思います。
 しかし、新しい『ゼクシオプライム』は意図的にヘッドの重心がやや高く設定されており、ヘッドスピードが35m/s前後、もしくはそれ以下の方でも球がドロップしにくくなり、明らかにキャリーを伸ばしやすくなっています。また、「パワーチャージフェース」により、SLE規則内であっても、フェースの反発を最大限に生かせるように設計されています。
 
2. クラブ長さが長くなって、飛距離重視に
 今回の『ゼクシオプライム』は、前モデルよりも半インチ以上クラブが長くなり、飛距離重視設計であることがわかります。通常。クラブ長さを長くするだけでは、クラブ慣性モーメントが大きくなり過ぎて振りづらくなるのですが、今回の『ゼクシオプライム』は、クラブ重量が約10g軽くなっていますので、従来からの振りやすさを維持しています。従って、クラブの重みと長さを生かしながら、飛距離を伸ばすことができるでしょう。
 
3. ヘッドの慣性モーメントが大きくなって、安心感がある
 今回の『ゼクシオプライム』は前モデルと比べて、ヘッド体積はほぼ同じですが、ヘッド全体が扁平型でシャローフェースになった結果、ヘッドの投影面積も大きくなり、構えたときの安心感が増しています。ヘッドの慣性モーメント(実測値)も約10%大きくなり、フェースの芯を外したミスショットでもヘッドがブレにくく、飛距離や方向性の安定に優れています。
 
4. ヘッドの操作性が良く、球がつかまる
 通常、ヘッドの投影面積が大きくなるとヘッドの重心距離も長くなります。その結果、ヘッドのネック軸回りの慣性モーメントも大きくなってしまい、ヘッドの返りが遅くなって球がつかまりにくくなってしまいます。
 しかし、新しい『ゼクシオプライム』は重心距離が長くなり過ぎないように設計され、ヘッドの投影面積がかなり大きくなったのにもかかわらず、前モデルの操作性を維持しています。また、適度なフェース角設定と大きなリアルロフトが相まって、球をつかまえやすくなっており、ドロー系弾道の強い球を打ちやすくなっています。
 
5. 軟らかいシャフトでヘッド速度アップ
 今回の『ゼクシオプライム』のシャフトは前モデルよりもさらに軟らかくなっており、ヘッドスピードが30m/s台のゴルファーにとって、より振りやすくなっています。ダウンスイングで従来よりもシャフトのしなりが感じられ、しかもヘッドスピードが上がりやすくなっています。特にRフレックスでは、やや力のある競技指向の女性でも振りやすくなっていると思います。
 

■松尾好員の辛口トーク
 今回の『ゼクシオプライム』では、「高級モデル故の高価な価格」以外は辛口コメントはありません。個人的には、ヘッドスピードが遅めのシニアゴルファーをはっきりターゲットとしたことを評価したいと思います。外観が美しいことは特筆ものですが、むしろターゲットゴルファーに合った設定、ヘッドの高重心化、リアルロフト角、フェース角、クラブ重さ、クラブ長さなどのスペック設定を大いに評価したいです。

ゼクシオプライム ドライバーの実測データ
  NEW PRIME 前モデル
#1
10.5度
SR
#1
11.5度
R
10.5度
SR
11.5度
R
クラブ長さ inch 45.75 46.5 44.8 46.0
クラブ重さ g 275.0 273.0 286.1 283.2
スイングウエイト   C9.0 D1.3 C9.2 D1.4
クラブ慣性モーメント gcm2 281万 288万 279万 288万
 
ヘッド重さ g 187.4 186.7 196.1 191.3
ヘッド体積 ml 456 461 451 456
リアルロフト deg 13.5 14.3 12.3 13.5
ライ角 deg 57.0 57.5 57.5 57.5
フェース角 deg HOOK 3.0 HOOK 3.5 HOOK 2.0 HOOK 2.5
フェースプログレッション mm 20.8 20.9 19.6 20.2
 
重心距離 mm 39.2 40.5 39.9 40.2
重心深度 mm 39.4 40.6 36.0 35.4
フェース高さ mm 51.7 51.7 57.8 57.9
スウィートスポット高さ mm 35.1 35.2 35.3 36.0
低重心率 % 67.9 68.1 61.1 62.2
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,333 4,337 4,059 3,926
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,763 2,818 2,528 2,414
ネック軸回りモーメント gcm2 6,908 7,205 6,816 6,590
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。