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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.63

『スリクソンGiE』ドライバーを検証する


 今年『スリクソン』ブランドに新しく『スリクソンGiE』が加わり、今までとは違ったデザインとリーズナブルな価格で大きな注目を浴びています。『GiE』は、GRAVITY(重心)、INNOVATE(革新)、EASY(簡単)の各頭文字を取ったネーミングと説明されていますが、 果たしてその性能はどのようなものでしょうか?ドライバーからじっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)


1. 大きく安心感のあるヘッド
 これまで『スリクソン』と言えばプロモデル、オーソドックスな設計でプロや上級者が安心して使える道具のイメージでした。しかし、今回の『スリクソンGiE』は、一見しただけで「やさしそう」と感じられるくらいデザインが変わりました。
 ドライバーのヘッドは丸型で、規則限度一杯に投影面積が大きくなっており、アベレージゴルファーにも上手く当たりそうな安心感があり、革新的なデザインイメージも印象的です。丸形といっても扁平タイプになっており、かなりのシャロフェースなので、実測の体積は448mlと数字上はやや小さくなっていますが、大きな投影面積により「打ちやすそうに感じる」ものに仕上がっています。これはゴルファーにとってはとても重要なことです。
 
2. ヘッド慣性モーメント値がアップして、よりミスショットに寛容に
 これまでの『スリクソン』の中では『スリクソンWR』が最もやさしいモデルでした。しかし、今回の『スリクソンGiE』ドライバーでは、ヘッドの慣性モーメントが『WR』に比べて15%以上も大きくなり、スリクソン史上最大の慣性モーメントを持つ超やさしいヘッドになっています。従って、フェースのスイートスポットを外したミスショットでも、飛距離、方向性ともに圧倒的に安定感があり、ブンブン振り回してもヘッドが助けてくれそうです。
 
3. 本当に深・低重心ヘッド
 『スリクソンGiE』ドライバーはヘッド全体がシャローなので、スイートスポット高さが低くなり、しかも横幅の広いヘッドにより、深い重心深度となっています。従って、インパクトロフトが大きくなり、しかもバックスピンの少なめの強い弾道を打つことができます。
 
4. 9.5度はスクエア、10.5度はややクローズ
 『スリクソンGiE』ドライバーは、ロフト角によってフェース角が調整されています。ややヘッドスピードが速く9.5度を選ばれるゴルファーにはスクエアフェースを、アベレージのヘッドスピードで10.5度を選ばれるゴルファーには球がつかまるややクローズな設定となっています。親切設計と言えるでしょう。
 
5. スコアラインがフェース全面に、雨の日も安心
 従来の『スリクソン』と同様に、『スリクソンGiE』はフェース全面にスコアラインが入っています。デザイン的にはシンプル過ぎると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、このスコアラインは雨の日でも球がドロップしにくく、安心なのです。
 
6. クラブが長く、軽く、振りやすい
 『スリクソンGiE』ドライバーは、クラブ長さが45.5インチとやや長めの設定となっています。通常クラブが長くなればクラブ慣性モーメントが大きくなって振りにくくなるのですが、この『GIE』はクラブ重量が『WR』に比べて約10g軽くなっていますので、振りやすさがあまり損なわれていません。
 Sシャフトではヘッド速度が43~45m/sくらい、Rシャフトではヘッド速度が40~42m/sくらいの方が、丁度タイミング良くスイングしやすくなっています。
 
7. メリハリの効いた振りやすいシャフト
 『スリクソンGiE』ドライバーに装着された新しい「SV-3019J」シャフトは、シャフトの中間部を軟らかくしてヘッドスピードが上がりやすいように設計されています。そして、ヘッドに近い先側はよりしっかりさせて方向性の安定に寄与しています。フィーリング的には、ヘッドスピードの速いゴルファーが使うSフレックスはしっかり感を、アベレージのヘッドスピードのゴルファーが使うRフレックスはしなり感を得られるようにできていると思います。
 

■松尾好員の辛口トーク
 個人的には『スリクソンGiE』ドライバーはヘッドのデザインイメージやクラブの価格からしますと、対象ゴルファーが一般のゴルファーの中でも、20代や30代のヤングゴルファーではないか?と思っていますので、もう少しクラブ重量が重くなるほうがマッチするゴルファーもいるのではないかと思っています。そこで、そのようなゴルファーには、カスタムメイドシャフトが準備されていますので、自分に合ったシャフトを選択することができます。
 また、これは辛口トークではありませんが、『スリクソンGiE』という新しいブランドを持つことで革新的な設計がしやすくなったと思いますので、これからの『スリクソン』に大いに期待したいと思います。

SRIXON GiE ドライバー 実測データ
  SRIXON GiE SRIXON WR
9.5度 S 10.5度 R 9.5度 S
10.5度 R
クラブ長さ inch 45.5 45.5 44.9 44.9
クラブ重さ g 297.6 290.1 305.7 301.8
スイングウエイト   D2.2 C9.5 D1.7 D1.0
クラブ慣性モーメント gcm2 291万 285万 287万 286万
 
ヘッド重さ g 194.8 194.5 196.3 193.0
ヘッド体積 ml 449 448 444 444
リアルロフト deg 10.5 11.5 10.6 11.8
ライ角 deg 59.5 59.5 58.5 58.0
フェース角 deg HOOK 0.5 HOOK 1.5 HOOK 0.5 HOOK 1.0
フェースプログレッション mm 17.2 17.3 17.8 17.8
 
重心距離 mm 38.8 37.9 39.6 40.0
重心深度 mm 41.5 40.6 36.0 35.6
フェース高さ mm 52.9 52.5 53.4 53.7
スウィートスポット高さ mm 32.8 33.3 33.8 34.5
低重心率 % 62.0 63.4 63.3 64.2
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,718 4,665 4,115 3,957
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 3,046 2,996 2,413 2,362
ネック軸回りモーメント gcm2 7,908 7,690 7,092 6,960
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。