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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.66

『スリクソン Z-TX 』ドライバーを検証する


 今年、すでに男子ツアーや日本アマで使用され、個人的にもどのようなクラブか気になっていた『スリクソンZ-TX』ドライバーがようやく9月から発売されました。前モデルの『スリクソンZR-800』も完成度の高いクラブでしたが、『ZRシリーズ』から『Z-TX』へと名前が変わり、どのように進化したのか非常に興味深いところです。いつものようにクラブとヘッドをじっくり検証してみることにしました。(実測データは別表)

1. 投影面積が大きく安心感のあるヘッド
 『スリクソンZ-TX』ドライバーはまず、ヘッドの全体形状がオーソドックスで申し分ありません。フェースの丸み(バルジ)が少なく、プロモデルらしいスクエアフェース設定なので、スクエア感が大事にされていて、アドレスしやすくなっています。
 また、フェースプログレッションが従来よりも小さくなっていますので、シャフト軸からフェースにかけて、より一体感が出ています。
 そして、今回の『Z-TX』は『ZRシリーズ』に比べて、ヘッド全体が扁平化されたことでシャローフェースになり、結果ヘッドの投影面積が大きくなるように設計されています。このためにクラブ長さがスリクソン史上最も長い45.25インチになっていますが、その長さを感じることなく、まったく違和感なしに構えることができます。
 
2. 高弾道で大きな球を打ちやすいプロモデル
 『スリクソンZ-TX』ドライバーは、ヘッドの投影面積が大きくなってヘッドの横幅も広くなっているため、ヘッドの重心深度が従来の『ZRシリーズ』よりもかなり深くなっており、スイング中のインパクトロフトが増えやすくなっています。また、クラブ長さが長くなってスイング軌道がややフラットになる効果もあって球が上がりやすくなっています。
 その結果、従来の『ZR シリーズ』と比べて特にリアルロフト角設定が大きくなっているわけではありませんが、楽に球が上がりやすく、高い弾道で大きな球が打ちやすくなっています。
 
3. 大型ヘッドでも球がつかまる
 一般には今回の『スリクソンZ-TX』ドライバーくらい大きな投影面積のヘッドになると、ヘッドの操作性が悪くなり、インパクトでのヘッドの返りが遅いために球のつかまりが悪くなりやすいものです。
 しかし、『Z-TX』では意図的に重心距離が従来に比べてやや短く設定され、そのためにヘッドの操作性の判断となるネック軸回りの慣性モーメントが小さめに抑えられて、球をつかまえやすくなっています。ある程度ゴルフをされる方なら理解していただけると思いますが、飛距離を出すためにはその「球をつかまえる」ことが重要ですので、『Z-TX』は大型ヘッドでも球をつかまえたいプレーヤーに適しています。
 
4. 複雑なフェース肉厚構造で平均飛距離アップ
 従来から高度なフェース肉厚設計がなされている『ZRシリーズ』ですが、今回の『スリクソンZ-TX』ドライバーではフェース中央に対してX字型に2.0mmの肉薄部があり、多少フェースの芯を外したオフセンターショットの場合でも安定したボール初速が得られます。
 
5. アスリートゴルファーが振りやすいクラブ重量設定
 今回の『スリクソンZ-TX』ドライバーはスリクソン史上最もクラブ長さが長く設定されています。通常クラブ長さを長くしたときには、振りやすさの判断となるクラブ慣性モーメントが増大し過ぎてしまい、ターゲットゴルファーに合わなくなることが多いのですが、この『Z-TX』ではクラブ重量を少し軽くすることで、クラブ慣性モーメントが増大し過ぎないように調整されています。
 例えば、「SV-3020J T-65」のSシャフトではクラブ慣性モーメントが291万gcm2~292万gcm2になっていますので、丁度ヘッド速度が45~46m/sくらいの方がタイミングよく振りやすくなっていて、多くのアスリートゴルファーに適合しやすくなっています。
 また、「T-55」のSシャフト仕様の場合、クラブ重量が306gと軽くなってクラブ慣性モーメントが289万gcm2になっていますので、丁度ヘッド速度が43~44m/sくらいの方がタイミングよくスイングしやすくなっています。
 そして、「T-55」のRシャフト仕様が303gと最もクラブが軽くなって振りやすくなっており、試打した感じでは丁度キャリーが200ヤードくらいのときに最も弾道が強くなっていたので、シニアアスリートゴルファーの選択肢の1つとなるでしょう。
 

■松尾好員の辛口トーク

ロフト角の選び方を変えてもよいかも

  特に辛口トークというわけではありませんが、今回の『スリクソンZ-TX』ドライバーはリアルロフト角設定が従来の『ZRシリーズ』と変わってはいないのですが、明らかに従来の『ZRシリーズ』よりも球が上がりやすくなっています。
 もし、読者の方がいつも比較的高い弾道を打てる方の場合、『Z-TX』ではクラブのロフト角を少ないほうに変えると、より弾道が強い中弾道的になって飛距離を伸ばせる可能性があるように感じました。
 今回様々なスペックを試打させていただいた結果ですが、従来モデルならば個人的には9.5度表示のクラブでキャリーとランのバランスが取れており、8.5度はまったく打てなかったのですが、今回の『Z-TX』では9.5度よりも8.5度のクラブのほうが強い中弾道になってトータルでの飛距離が出ていましたので、皆さんも1つロフトが小さいものも試してみてもよいのではと思いました。

SRIXON Z-TX ドライバー 実測データ
  Z-TX ZR-800
9.5度
T65-S
10.5度
T65-S
10.5度
T55-S
9.5度
T65-S
クラブ長さ inch 45.25 45.25 45.25 45.1
クラブ重さ g 313.6 313.9 306.3 317.3
スイングウエイト   D2.0 D1.7 D0.8 D2.0
クラブ慣性モーメント gcm2 292万 291万 289万 291万
 
ヘッド重さ g 193.8 - - 197.1
ヘッド体積 ml 450 - - 451
リアルロフト deg 10.8 - - 10.6
ライ角 deg 57.5 - - 58.0
フェース角 deg 0.0 - - 0.0
フェースプログレッション mm 17.8 - - 18.8
 
重心距離 mm 38.5 - - 40.0
重心深度 mm 36.2 - - 34.3
フェース高さ mm 55.7 - - 57.4
スウィートスポット高さ mm 35.0 - - 35.6
低重心率 % 62.8 - - 62.0
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,271 - - 4,226
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,497 - - 2,439
ネック軸回りモーメント gcm2 6,689 - - 6,794
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。