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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.69

『新・ゼクシオ』アイアンを検証する


 『ゼクシオ』はアイアンについても2年に1度のモデルチェンジで着実な進化を遂げてきており、その性能の高さについては、この10年間、販売第1位を続けていることで証明されています。しかし、一方ではドライバーに比べてアイアンはそれほど変わっていないのでは?と言う声も聞こえてくるのも事実ですが、今回の6代目の『新・ゼクシオ』アイアンは、ドライバーと同じく「新」という名前が付いているだけに、どのように進化しているのか、検証するのがとても楽しみです。

1. 5代目の『ゼクシオ』からの進化が大きい、安心感のあるヘッド
 今回の6代目の『新・ゼクシオ』アイアンは、まずフェースが大きいのでアドレスしたときにフェース面がよく見えるため、ストロングロフト仕様にもかかわらず、ロフト角が付いているように思えて、とてもやさしそうに感じます。また、グースネックと丸いトップラインにより、球を包み込む様なイメージが出ており、球をつかまえやすそうに感じます。
 そして、アイアンのフェースの素材として初めてドライバーと同じ軽比重新素材(新日鉄のスーパーTIX®プラス)が使われており、より詳細な設計でトウ側とヒール側に重量配分し、『ゼクシオ』史上最も大きなヘッドの慣性モーメントを誇っていた5代目の『The ゼクシオ』アイアンをさらに凌ぐことになりました。ヘッド全体の持つデザインイメージは前5代目と似てはいますが、実際の中味はかなり進化しています。
   
2. ナイスショットのアベレージが高くなる
 ソール面に配置された多量のタングステン合金など、『新・ゼクシオ』アイアンの基本構造は前5代目と似ていると思われるかもしれません。しかし、強度アップされたフェース面や深くなった重心深度により、ヘッドの慣性モーメントが左右・上下とも非常に大きくなっています。
 このために、アベレージゴルファーに多い、ややトウ側に外れたミスショットや、やや薄めに当たったハーフトップ気味のショットでも飛距離のロスがより小さくなっています。また、アドレスしたときにわずかですが、前5代目よりもフェース面が大きく感じられますので、より安心感が高まっていると思います。
   
3. ソールの抜けが劇的によくなった
 これまでの『ゼクシオ』アイアンでは、シニアアベレージゴルファーはあまりダウンブローに打たないという考えがあったのか、ソールのバンス角は小さく設計されていました。しかし、何ということでしょう。私が個人的に6代目の『新・ゼクシオ』で最も進化したと思う点の1つはソールのバンス角で、今回の『新・ゼクシオ』には5番や7番アイアンにも適度にバンス角が付いているではありませんか。
 一般に、人工芝で練習していると感じにくいのですが、実際のコースではダウンブローにスイングしたときには適度なバンス角がソールの抜けを助け、さらにバンス角がミドルアイアンからショートアイアンのインパクトをより強くしてくれるのです。一般ゴルファーが気づきにくいソールのバンス角にも『新・ゼクシオ』はしっかり進化が遂げられており、ベテラン上級者の方もアイアンの抜けがよくなるはずです。
   
4. シャフトでも楽に球を上げて飛ばしてくれる
 今回の『新・ゼクシオ』では、オリジナルカーボンシャフトの「MP600」も日本シャフト製のオリジナル「NS950GH HL FOR XXIO」軽量スチールも、先端部を軟らかくし、シャフトの中央部も軟らかくするという同じコンセプトで開発されています。それぞれを詳しく検証してみます。
 まず、「MP600」カーボンシャフトでは、前「MP500」に比べて先端部がより軟らかくなり、インパクトロフトがより大きくなって打ち出し角度を高く、その結果キャリーが伸びるように設計されています。そして、中央部を軟らかくすることで、インパクト付近でのヘッドスピードが上がりやすくなっており、シニアアベレージゴルファーには嬉しい仕様となっています。もちろん、先側も中間部も軟らかくなると単なる軟らかいシャフトになってしまいますが、「MP600」では手元側をしっかりさせることでスイング中のシャフトの動きを安定させてくれます。
 また、『新・ゼクシオ』専用設計の軽量スチールの「NSPRO950GH HL」ですが、手元側のしっかり感は残しながら、前5代目の「HT」よりもシャフトの先端部を軟らかく、中央部もやや軟らかく設計されています。カーボンシャフト同様に、先端部を軟らかくすることでインパクトロフトがより大きくなって打ち出し角度を高くし、その軟らかい中央部でインパクト付近でのヘッドスピードを上がりやすくしています。もちろん「MP600」カーボンシャフトよりもクラブ重量が重くなりますので、カーボンシャフト仕様に比べてやや弾道は低くなり、風に負けない強い弾道も打ちやすくなっています。
   

■松尾好員の辛口トーク

AWのヘッド形状を、PWに近い感じにしてみては
 今回の『新・ゼクシオ』ではAWのロフト角が50度ですので、実際のコースではアプローチ用というよりも主にフルショット用として使われることが多いかもしれません。そこで、SWに近い丸みのある輪郭形状よりも、よりフルショットしやすいPWの形状に合わせたAWのほうが、より使いやすくなるのではないかと思います。

新・ゼクシオ アイアン 実測データ
  新・ゼクシオ 前モデル
#5
MP600
S
#7
MP600
S
#5
950HL XXIO
S
#7
950HL XXIO
R
#5
MP500
S
#7
950HT XXIO
R
クラブ長さ inch 38.0 37.0 38.0 37.0 38.0 37.0
クラブ重さ g 364.1 369.9 401.6 407.6 365.0 408.4
スイングウエイト   D0.0 C9.3 D2.7 D1.0 D0.2 D1.4
クラブ慣性モーメント gcm2 264万 259万 275万 268万 265万 270万
 
ヘッド重さ g 249.5 262.6 - - 249.7 263.0
リアルロフト deg 23.5 30.5 - - 23.8 30.2
ライ角 deg 61.0 61.8 - - 61.0 62.0
フェースプログレッション mm 1.0 2.3 - - 0.8 2.9
ソールバンス角 deg 2.0 2.2 - - -2.2 0.2
 
重心距離 mm 39.9 40.3 - - 38.8 39.5
重心深度 mm 4.5 3.4 - - 4.2 4.0
スウィートスポット高さ mm 20.3 20.7 - - 20.3 20.7
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 2,770 2,943 - - 2,632 2,762
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 606 650 - - 583 617
ネック軸回りモーメント gcm2 6,290 6,734 - - 6,260 6,538
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。