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クラブデザイナー松尾好員氏による甘辛ギア評論 松尾好員が斬る!
VOL.71

『スリクソン NEW Z-TX ドライバー』と『スリクソン NEW Z-TX TOUR ドライバー』を検証する


 SRIスポーツのプロモデルブランド、『スリクソン』のドライバーが昨年、モデルチェンジしました。『スリクソン NEW Z-TX ドライバー』と『スリクソン NEW Z-TX TOUR ドライバー』という2つのモデルがありますが、ツアーの飛ばし屋として有名な小田孔明プロや額賀辰徳プロが使って話題になりましたので、とても興味深く思っていました。そこで、これらのクラブをいつものようにじっくりと検証してみることにしました。(実測データは別表)

左:NEW Z-TX 右:NEW Z-TX TOUR

1. 球がつかまり飛距離が出るヘッド
 まず、『NEW Z-TX ドライバー』のヘッドですが、この全体形状はオーソドックスかつスクエアフェースなので、上級者が素直にアドレスできるものです。
 そして、別添の実測データでも明らかですが、以前の『ZR-800』や前『Z-TX』に比べて、ヘッドの重心距離が短く設定されているのが特徴で、その結果ヘッドの返りやすさ(操作性)を表すネック軸回りの慣性モーメント値が小さくなり、従来よりも球がつかまりやすくなっていることがわかります。
 実際に試打しても、『NEW Z-TX』はドロー系弾道を打ちやすいことがすぐにわかり、ドロー系に飛ぶことによって球の落ち際が強くなり、従来モデルよりも飛距離アップを実感できます。
   
2. 「Quick Tune System」によりヘッドの重心位置を調整できる
 『NEW Z-TX』の大きな特徴の1つに、誰でも簡単にウエイト交換できる「QTSシステム(クイック・チューン・システム)」が装備されていることが挙げられます。
 こうしたチューニングシステムはいろいろな方法がありますが、一般的にはネジ山のあるビスが使われていることが多く、そのビスの出し入れに手間がかかるだけでなく、時にはビスを落下させてビスを探さなければならないといった不都合も少なくありません。
 しかし、『NEW Z-TX』ではヘッドにウエイトを固定する樹脂製パーツが組み込まれ、それに対して特殊設計ウエイトを挿入するため、わずか45度回転させるだけで交換できるようになっています。
 今回、SRIスポーツからビスとレンチを借りて、実際に『NEW Z-TX』のウエイト交換を行ったデータについても掲載していますので、ぜひ参考にしてください。
 個人的には、『NEW Z-TX』のチューニングは、標準仕様(ヒール7g、バック7g)が重心位置や慣性モーメントなどのバランスが最も良いと思います。ですが、スピン量を抑えてドロー系弾道を強めるならばヒール側を重く、また、インパクトロフトを大きくしながらもややヘッドの返りを抑えるならばバック側を重くしてみると良いと思います。
   
3. 球が強く感じるインパクトサウンド
 SRIスポーツにはスーパーセールスモデルの『ゼクシオ』があり、「カキーン」という高いインパクトサウンドが魅力の1つになっていますが、ゼクシオよりもヘッドスピードが速めの上級ゴルファーを対象としている 『NEW Z-TX』では、逆に抑えた打球音のほうが強い球のイメージにつながります。
 対象ユーザーを考えて、ドライバーのインパクトサウンドを作るのはさすがです。
   
4. 微妙に振りやすくなった『NEW Z-TX』と『NEW Z-TX TOUR』
 別添のデータ表を見ていただけますと、従来のモデルに比べて『NEW Z-TX』と『NEW Z-TX TOUR』の慣性モーメント値が微妙に小さくなっています。クラブの長さも重さも過去のモデルとよく似ていますが、今回は微妙に手元側が重くなることでクラブ慣性モーメントを小さくすることによって、よりシャープにより鋭くスイングしやすくなっており、その結果、飛距離を伸ばすことに寄与しています。
   
5. シャフト専業メーカー同等の高品質シャフト装着
 私が個人的に感銘を受けているのは、標準装着されている「Miyazaki Kusala シャフト」のグレードの高さです。
 当初はシャフトの呼び名と内容に慣れるまで戸惑いもありましたが、しばらく試打して時間が経つと、むしろ逆に性能がわかりやすいとさえ思えたくらいです。シャフトのしなり方、トルク感、球のつかまり、球の上がりやすさなど、スイングに合ったものを選べば確実に飛距離は伸びるはずです。
 確かに少しクラブの価格が上がっていますが、納得のいくクラブになると思います。
   
6. 魅力的な『NEW Z-TX TOUR』の低重心設計
 別添データを見ていただくと、『NEW Z-TX TOUR』はスイートスポット高さが低く、低重心設計であることがわかります。重心深度は浅めに設定されており、インパクト付近でヘッドがアッパー軌道になる動きが抑えられています。よって、インパクトをレベルにスイングしたい方に向いています。
 ヘッドの投影面積は確かに小さいのですが、しばらく『NEW Z-TX TOUR』を試打していると、そのヘッドの小ささはあまり気にならなくなってきます。ヘッドの慣性モーメントも小さいですが、ヘッドの操作性が良いので、例えばインパクトアッパーで高い弾道を打ったり、レベルにスイングして中弾道で低めに抑えたりと、その状況において自在にスイングしやすくなっています。
   


■松尾好員の辛口トーク

恐るべき『NEW Z-TX TOUR』の飛距離性能
 あえて辛口トークとして、「『NEW Z-TX TOUR』を数量限定品にしないで欲しい!」と強く言いたいです。
 今回、試打クラブとして、『NEW Z-TX』については、 ロフト8.5度(「BLUE72」Sと「BLUE72」Xシャフト)、ロフト9.5度(「BLUE72」Sと「SILVER61」Sシャフト)、ロフト10.5度(「SILVER61」SRシャフト)の5本を借りることができました。そして『NEW Z-TX TOUR』についてはロフト9.5度(「BLACK72」Sシャフト)を1本借りることができました。そして、これらの6本のドライバーを実際のコースのフラットな地形のホールで試打しました。
 『NEW Z-TX』8.5度のSシャフトは球がつかまった中弾道となり、私には硬いと思われたXシャフトでは球がつかまり過ぎない中弾道で飛んでいきました。結果はXシャフト仕様のほうがSシャフト仕様よりも飛距離が出ていました。
 『NEW Z-TX』の9.5度に関しては、基本的には高めのドロー系弾道が打ちやすくて弾道も安定しており、「SILVER61」Sではさらに振りやすくてより弾道が高くなりました。
 『NEW Z-TX』の10.5度「SLIVER61」SRでは、クラブとしてよりやさしく感じられ、ヘッドスピードが43m/sくらいの方との相性が良さそうに思いました。
 そして、もう1つのモデル『NEW Z-TX TOUR』の9.5度ですが、打つ前には「私には無理なモデルかな?」と思いましたが、何と最高飛距離はこの『NEW Z-TX TOUR』がもたらしたものだったのです。「BLACK72」Sシャフトとも相性が良く、中弾道でランも出る強い球を打つことができました。
 もちろん、読者の皆さんのスイングの仕方や持ち弾道があると思いますが、できれば試打されるときにはスペックを決めてかからずに、できるだけ多くのクラブを試されると良いと思います。また、個人的な意見ではありますが、ヘッドスピードが45m/sあれば、ぜひとも『NEW Z-TX TOUR』も試打されることをお勧めしたいと思います。

SRIXON「NEW Z-TX」「NEW Z-TX TOUR」ドライバー実測データ
  NEW
Z-TX
NEW
Z-TX
NEW Z-TX
TOUR
ZR800 前Z-TX
9.5度 10.5度 9.5度 9.5度 9.5度
BLUE 72S SILVER 61S BLACK 72S T65-S T65-S
クラブ長さ inch 45.25 45.25 45.0 45.1 45.25
クラブ重さ g 314.5 309.4 317.5 317.3 313.6
スイングウエイト   D1.8 D1.7 D2.2 D2.0 D2.0
クラブ慣性モーメント gcm2 290万 289万 290万 291万 292万
 
ヘッド重さ g 194.7 --- 195.8 197.1 193.8
ヘッド体積 ml 449 --- 420 451 450
リアルロフト deg 10.0 --- 9.3 10.6 10.8
ライ角 deg 58.0 --- 58.5 58.0 57.5
フェース角 deg 0.0 --- 0.0 0.0 0.0
フェースプログレッション mm 18.6 --- 18.8 18.8 17.8
 
重心距離 mm 36.1 --- 36.0 40.0 38.5
重心深度 mm 35.6 --- 32.5 34.3 36.2
フェース高さ mm 54.7 --- 56.6 57.4 55.7
スウィートスポット高さ mm 35.7 --- 34.1 35.6 35.0
低重心率 % 65.3 --- 60.2 62.0 62.8
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,157 --- 3,760 4,226 4,271
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,582 --- 2,129 2,439 2,497
ネック軸回りモーメント gcm2 6,424 --- 5,681 6,794 6,689

NEW Z-TX ドライバー実測データ、
Q.T.Sによるウエイト交換の場合
  NEW Z-TX
9.5度
ヒール7g、バック7gの場合 ヒール11g、バック3g ヒール3g、バック11g
ヘッド重さ g 194.7
ヘッド体積 ml 449
リアルロフト deg 10.0
ライ角 deg 58.0
フェース角 deg 0.0
フェースプログレッション mm 18.6
 
重心距離 mm 36.1 35.5 36.7
重心深度 mm 35.6 34.5 37.3
フェース高さ mm 54.7 54.7 54.7
スウィートスポット高さ mm 35.7 35.3 36.1
低重心率 % 65.3 64.5 66.0
 
ヘッド左右慣性モーメント gcm2 4,157 4,046 4,261
ヘッド上下慣性モーメント gcm2 2,582 2,468 2,711
ネック軸回りモーメント gcm2 6,424 6,155 6,714
※このデータは、松尾好員氏による測定結果です。測定方法の差異により、当社の公表値と異なる場合があります。

松尾好員(まつお・よしかず)
1957年 大阪生まれ
1975年 三国丘高校在学中に第一回関西ジュニアゴルフ選手権優勝。
1980年 神戸大学工学部卒、同年住友ゴム工業(株):ダンロップに入社し、以来、ゴルフクラブの開発 に携わる。ツアープロ用のクラブの設計も数多く行い、開発した主なプロはS・バレステロス、I・ウーズナム、D・フロスト、M・マッカンバー、T・リーマン、D・グラハム、F・ゼラー、H・サットン、N・プライス、青木功、加瀬秀樹、宮瀬博文ら多数のPGAプロ。
1995年 震災で人生観が大きく変わり、より深くゴルフクラブのことを勉強する為に独立を決意。
1996年 4月に住友ゴムを退社。同年5月に有限会社ジャイロスポーツを設立し、ゴルフクラブの設計を手掛け現在に至る。